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第三十四章・2

 賑わいの後には、寂寥感が付きものだ。 「楽しかったですね、響也さん」 「そうだな。麻衣のご家族にも会えて、良かったよ」  こんな言葉を交わしながらも、ぽつんと二人だけになって、麻衣は思わぬ寂しさを味わっていた。  そんな折、響也が珍しいことを言ってきた。 「麻衣に、お願いがあるんだが」 「お願い? 何でしょう」 「私の我がままに、付き合って欲しいんだ」  実は、と彼は打ち明けた。 「かねてから、いつか国中の桜の名木を訪ねてみたい、と考えていたんだ」  滝桜に、神代桜。淡墨桜、蒲桜、下馬桜……。 「素敵ですね!」 「一緒に、巡ってくれないかな」  麻衣の返事は、もちろんイエスだ。 「響也さん、早く支度しましょう。急がないと、桜が散ってしまいますよ!」  途端にいきいきと動き始めた麻衣に、響也は目を細めた。  思いきって打ち明けて、良かった。  そう考えて、微笑んだ。

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