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第三十四章・4
感動の涙を浮かべる麻衣を見て、響也はそっとうなずいていた。
良かった。
麻衣と一緒に、この桜を見ることができて、本当に良かった。
(以前は、誰かと共に訪れるなど、考えもしなかったが)
おそらくは、老いて仕事の第一線から退いて。
そして時間に余裕ができてから、一人で巡るはずだった。
「麻衣」
「あ、はい」
慌てて涙をぬぐう麻衣が、可愛い。
「いいよ、そのままで」
響也は、そっと麻衣を抱き寄せた。
「響也さん、他の人たちが見てます」
「いいさ、見られても」
遥かな時を生きる桜の代わりに、刹那を生き抜く麻衣を抱きしめた。
それは、とても尊いものに感じられた。
許されるなら。
この命が果てるまで、麻衣と共に生きたい。
そんな想いが湧き上がるのを、止めることができなかった。
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