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第三十四章・5

 桜巡りの最終日、泊った宿で、麻衣は響也に問うた。 「そう言えば。響也さん、どうして桜の名木巡りがしたかったんですか?」 「好きなんだ。桜の花が」  絢爛に咲き誇り、潔く散る。  そんな桜に、憧れた。 「桜のように私も生きたい、と思っていたんだ」 「そうだったんですね」  しかし、そこで麻衣は気づいた。 『桜のように私も生きたい、と思っていたんだ』  過去形? 「思っていた、って。今は、違うんですか?」 「うん。何というか、少し欲が出た」  潔く散るのではなく、多少はあがいてみたい。  少しくらいカッコ悪くても、あがいてもがいて永らえたい。 「麻衣のために、ね」 「響也さん」  二人は、しっかりと抱き合った。  甘酸っぱくて柔らかい、桜の香りのキスをした。

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