169 / 230
第三十四章・5
桜巡りの最終日、泊った宿で、麻衣は響也に問うた。
「そう言えば。響也さん、どうして桜の名木巡りがしたかったんですか?」
「好きなんだ。桜の花が」
絢爛に咲き誇り、潔く散る。
そんな桜に、憧れた。
「桜のように私も生きたい、と思っていたんだ」
「そうだったんですね」
しかし、そこで麻衣は気づいた。
『桜のように私も生きたい、と思っていたんだ』
過去形?
「思っていた、って。今は、違うんですか?」
「うん。何というか、少し欲が出た」
潔く散るのではなく、多少はあがいてみたい。
少しくらいカッコ悪くても、あがいてもがいて永らえたい。
「麻衣のために、ね」
「響也さん」
二人は、しっかりと抱き合った。
甘酸っぱくて柔らかい、桜の香りのキスをした。
ともだちにシェアしよう!