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第三十六章・5
麻衣の体を仰向けになったまま抱き、その背中を静かに撫でながら、響也はささやいた。
「どうだった? 初めての体位は」
「う……。あぁ、う……」
口で荒い呼吸をしながら、麻衣はようやく声を出した。
「こ、これ、って。変態プレイじゃ、ないですよね?」
「え!?」
麻衣はそこで、哲郎に注意されていたことを、響也に打ち明けた。
「響也さんが、妙なプレイを望んできても、断っていい、って」
「哲郎のやつ……!」
しかし、と響也は額に手を当てた。
(温泉では湯船の中でセックスしたし、今夜は騎乗位なんかねだったし!)
これまでの婚約者たちとは、明らかに違う。
彼女らに、そんな要求をしたことなど、一度も無いのだ。
「変態のつもりはないけど。哲郎の言うように、麻衣が嫌だと思ったら、断ってもいいよ」
「はい」
奇妙な会話はそこまでで、響也は改めて麻衣の髪を撫でてささやいた。
「愛してる。愛してるよ、麻衣」
今では、気負いも照れもなく、言えるようになった言葉を。
「……響也さん」
愛してます、と言いかけて唇が動いた。
響也はそれを、言葉ごとキスして受け取った。
天からいただく滋養のように、飲み込んだ。
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