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第三十七章・3

 雨音に混じって、かすかに聞こえてくるのは、蛙の鳴き声。  東屋の屋根から流れる、水音。  差している傘に落ちる、雨粒の音。  それだけではない。  注意深く五感を研ぎ澄ますと、様々な匂いも感じられた。  水の匂い、緑の匂い、土の匂い……。  響也は自然と、笑顔になっていた。 「なるほど。麻衣の言いたいことは、解ったよ」 「ね。雨の日って、結構素敵でしょう?」  二人は東屋の下に腰掛け、傘を畳んだ。 「君と一緒にいると、毎日が楽しいな」 「僕も、響也さんといると、楽しいです」  絶え間なく雨の落ちる曇り空も、何だか明るく思えてくる。  麻衣と共にいると。  I'm singing in the rain  Just singing in the rain  What a glorious feelin'  I'm happy again…… 「あっ。『雨に唄えば』ですね!」 「知っているのか、麻衣」  響也が口ずさんだのは、もうずいぶんと昔のミュージカルで歌われた曲だ。  有名ではあるが、若い麻衣が知っているのは、意外だった。

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