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第三十七章・5

「おや。雨が小降りになってきたようだ」 「本当ですね」  この分だと、雨は上がりそうだ。  そんな言葉を交わしながら、響也と麻衣は東屋の下から出た。 「あっ! 麻衣、見てみろ。空を!」 「え? あぁっ! すごぉい!」  天には、大きな虹の橋がかかっていた。 「虹を見るのは、久しぶりだ」 「僕もです」  虹を見上げながらも、そのさらに遠くを見ているような響也の横顔を、麻衣は見た。  そして、Chase rainbows、という言葉を思い出していた。  虹をつかむような、叶わない夢を追う、という意味だ。  だけど、と麻衣は考える。 (響也さんなら。この人ならば、虹をつかむことすら可能にしてしまうんだろうな)  叶わない夢を追うのではなく、夢物語ばかり言うのではなく。 「麻衣」 「何ですか?」  少しだけ、麻衣の心から遠くへ行きかけていた響也が、名前を呼んだ。  麻衣、と名を呼んでくれた。 「……やっぱり、暑いな」 「もう、響也さんったら!」  一周廻って戻って来たように、響也は明るく笑った。  雲の隙間から、青空がのぞく。  麻衣も、響也と一緒に心から晴れやかに、笑った。

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