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第三十八章・5
ホテルを引き払う前に、麻衣は手紙をしたためた。
厨房にお邪魔して、ガラスの空き瓶をもらい、その中に手紙を入れて封をした。
自家用クルーザーに先に乗り込んでいた響也は、おや、と麻衣の手を見た。
荷物の他に、小さなものを持っている。
それは、ガラスの瓶だった。
「麻衣も、メッセージボトルを作ったのか?」
「はい。航行中に、海へ投げます」
小瓶を手に、麻衣は何だか嬉しそうだ。
「何て、書いたんだ?」
「そ、それは。恥ずかしいから、秘密です!」
彼は、響也への恋心を手紙に記していた。
ラブレターのようなものだ。
これを拾った、あなたへ。
僕は今、恋をしています。
ある時は、夏の太陽のように胸を焦がし、
ある時は、春の陽だまりのように温かです……。
一枚には収まり切れず、紙を二枚も使って、愛を書き綴った。
そして、波を蹴って軽快に走るクルーザーから、麻衣は小瓶を投げた。
ところが、その隣にいた響也もまた、腕を振って何かを海に投げ入れたのだ。
「あれっ? もしや、響也さんも?」
「麻衣と同じく、メッセージボトルを作っていたのさ」
「何て、書いたんですか!?」
「恥ずかしいから、教えないよ!」
響也もまた、麻衣への想いを海へと託していた。
美しい波間に二つのガラス瓶が、仲良く寄り添い漂っていった。
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