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第三十九章・3
「早く、早く!」
「こっち! 急いで!」
「五条 颯真が来てる、ってホント!?」
ライブ会場のゲストに、有名人が登場したらしい。
彼を一目見ようと押しかけた大勢の人波は、あっという間に響也と麻衣の間を遠く阻んでしまった。
「ああ、どうしよう。響也さん!」
少し声を張って呼んでみたが、届かない。
その姿も、もう見えない。
「着信音、聞こえるかなあ」
麻衣は、巾着から携帯電話を取り出した。
響也に連絡を、と思ったのだ。
すると、一人の青年が麻衣に声を掛けてきた。
「響也さんなら、こっちですよ」
「えっ?」
見ると、髪を金色に染めた、服装の派手な若者だ。
知らない顔だが、響也の名を親し気に唱えている。
「さっき、そこで出会って。麻衣くんとはぐれたから、見かけたら連れてきて欲しい、って」
「そうだったんですか」
麻衣は、すっかり彼を信用してしまった。
いざなわれるまま、人気のない所へと連れていかれた。
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