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第三十九章・5

 麻衣は、素早くしゃがむと、足元の砂や小石を手のひらに掴んだ。  立ち上がりざま、空いた片手で男の足を持ち上げて、思いきり前へ引く。 「う、うあッ!」  男は見事に後ろに倒れ、後頭部を強く打った。 「このガキ!」  仲間がやられて逆上した男が、腕を伸ばしてくる。  今度は、手にした砂を、その男の顔面に叩きつけた。 「ぎゃッ! 目、目がぁあ!」  これで、二人。  考えている暇は、無い。  富豪の家に生まれ育った麻衣は、多少の護身術も身につけてはいる。  しかし、襲われて一番効果的な策は、逃げることなのだ。  残る男は、三人。  とても戦って勝てる状況では、ない。  そこに、巾着袋の中の携帯が鳴った。 (響也さん!?)  麻衣は、とっさに電話を取り出し、すぐに通話を繋いだ。 「響也さん! 僕、襲われてます! 場所は……!」  麻衣の大声に、男たちは怯んだ。  この分だと、すぐに助けがやって来る。 「ちッ!」  舌打ちし、ダメージを受けた仲間を助けながら、その場を去って行った。  静まり返った空き地に、麻衣は脱力して座り込んでしまった。 「良かった……。助かった……」  端末からは、しきりに麻衣の名を呼ぶ響也の声が聞こえていたが、彼はしばらく動けなかった。

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