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第四十章・3
後味が悪くならないようにと、響也は残りわずかではあるが、花火の席へと麻衣を連れて来た。
勇壮な音に、輝く色彩。
きらめく、光。
広い夜空を彩る、大輪の花火を眺めるうちに、麻衣の心は次第に落ち着きを取り戻していった。
ただ、響也の手は握ったまま、離そうとはしなかった。
花火が終わり、静寂の中に人々のざわめきが戻って来た時、麻衣はぽつりと言った。
「響也さん。助けてくれて、ありがとうございます」
「いや……。私は、間に合わなかったよ。本当に、すまない」
「いいえ。電話をかけてくださったおかげで、僕は助かったんです」
響也のコール音を聞いて、犯人たちは逃げて行った。
それは、警察官に説明した通りの言葉だった。
そんな麻衣の手を握り返し、響也は凛とした声で言った。
「しかし、さすがは早乙女家の子息だ。取り乱さず、悪を許さない態度は立派だよ」
「……僕はただ、響也さんのことを想いました」
「私を?」
「はい。響也さんの隣に立つ人間として、恥じないことを、と」
「麻衣……」
ああ、本当に。
これほど飛鳥家にふさわしい人が、他にいるだろうか。
清く、誇り高いその心根は、強く響也を震わせた。
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