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第四十三章・4

 シャワーを浴びて、ミネラルウォーターを飲んで。  体を冷まして、パジャマを着て。  そして二人は、寝室へ進んだ。  ベッドの上で、優しい目をして、響也は麻衣の前髪をかき上げた。 「こんなに君が魔物なのは、何かわけが?」  麻衣の瞳は、まだ物欲しげに響也を映しているのだ。  嬉しいことだが、医師・哲郎に報告しなければならないような異常なら、大変だ。  しかし麻衣は、ただ響也にすがって訴えた。 「僕、どうしても。ただ、響也さんのことを無心に愛してみたくて。それで」  聞くと、夕食後の薬を飲んでいない、という。 「夕食後の薬というと、まさか」 「発情抑制剤、です」  麻衣は今、発情期を迎えているので、少し強めの薬で抑えている。  発情に任せて、やみくもに性交しても、子どもは授からない。  これが哲郎の持論だが、それを破るような真似を、麻衣がするとは。 「哲郎は、知っているのか?」 「いいえ。僕が勝手に、お薬を飲まなかったんです」  ただ、あなたを愛したかったから。  その言葉の意味を、麻衣は語り始めた。

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