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第四十三章・5
赤ちゃんが、欲しい。
これは、響也と麻衣の、共通の願いだ。
「でも僕。今夜は赤ちゃんのために響也さんを愛することを、やめたかったんです」
早乙女家の存続のために、赤ちゃんが欲しい。
二人の愛の結晶として、赤ちゃんが欲しい。
「そんな理由を付けないで、ただ無心に響也さんと愛し合いたかったんです」
愛している。
ただ、それだけ。
それだけで、人は求め合う。
愛し合う。
響也は、終いには涙声になってしまった麻衣をそっと抱き寄せ、その額に口づけた。
「ありがとう、麻衣。そこまで想ってくれてるなんて」
では、と視線を合わせて、微笑んだ。
「私も今夜は、ただ無心に麻衣を愛そう」
もちろん、まだまだ出来るね? と、少しいたずらっぽい口調で煽った。
「今の私はモンスターだから、夜はこれからだよ!」
「僕、僕も、魔物ですから!」
泣き笑いで、麻衣も返す。
今はただ、二人のためだけに。
刹那の夜の愛を、生きよう。
燃えるような口づけは、互いの骨まで溶かしていった。
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