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第四十四章 運命の日
小春日和の温かな、秋の日。
響也と麻衣は緊張したおももちで、哲郎の診察室に来ていた。
「待たせたな」
検査解剖室から戻って来た哲郎は、デスクのチェアにどさりと掛けた。
そして、口を開いた。
「陰性だ」
「そうか……」
麻衣の、最後の妊娠検査薬反応の結果が出たのだ。
今回もまた、子どもは授からなかった。
最後のチャンスも、実らなかったのだ。
今日はこの後、飛鳥の本家へ報告に行くことになっている。
一年経っても懐妊しなかった、と言わなければならないのだ。
そしてそれは、響也と麻衣の別れの宣告でもあった。
震える麻衣の肩を、響也は優しく抱き寄せ、無言で慰めた。
首をがっくりと落とし、哲郎は彼らに詫びた。
「すまない。一年間、俺の力不足だった」
「いや、お前はいろいろと頑張ってくれたよ」
「僕、哲郎先生に教えていただいたこと、たくさんあります」
逆に励まされ、哲郎は心底悔しく、悲しかった。
何とか、この二人を結ばせてあげたい。
その一心から生まれた案を、打ち明ける決心をした。
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