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第四十四章・3

「麻衣くん、すまない。君の気持ちを、考えていなかった」 「いいえ。哲郎先生が、こんなに一生懸命になってくださって。僕、嬉しいです」  それに、と響也が明るい声を上げた。 「診断書を捏造した、となると。哲郎、お前の医師としての評判は、さらにガタ落ちだからな!」 「さらに、は余計だ!」  診察室は笑いに包まれ、和やかな空気になった。  そこで哲郎は背筋を伸ばし、両膝をポンと叩いた。  椅子に掛けたままデスクの引き出しを開け、四角い包みを取り出した。 「少し早いが、響也に誕生日プレゼントだ!」 「プレゼント!? お前が? 私に!?」  青天の霹靂だ、と響也は包みを開けた。  そこには、ペアのマグカップが大切に包装されていた。 「赤と、白……」 「紅白で、めでたいだろ?」  茶化した後、哲郎は真顔で告げた。 「響也。来年の誕生日も、これで麻衣くんと一緒にコーヒーを飲むんだ」  親の反対なんか、蹴散らしちまえ!  荒っぽいが優しさに満ちた友人からのエールを、響也はありがたく受け取った。

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