218 / 230
第四十四章・4
笑顔で診察室から響也のリビングへと戻った、二人。
さっそく、哲郎から贈られたマグカップで、コーヒーをいただいた。
「こういう、カジュアルなカップでコーヒーを飲むのは、初めてだよ」
「哲郎先生、いつもデスクにマグカップを置いてらっしゃいますもんね」
温かな陽だまりと、かぐわしいコーヒーの香り。
穏やかなひとときを味わいながらも、麻衣は不安だった。
『赤ちゃんができなければ一年でお別れ、どころか。このまま添い遂げていただきたいと考えています』
以前、響也の母・凛子に掛けてもらった言葉が、思い出される。
もちろんあの後も、一緒に食事をしたり、お茶を楽しんだり。
凛子とは、交流を深めている。
(でも。響也さんは、どう思っているのかな……)
聞きたい。
彼の、真意を。
心の声を。
だが、その反面、不安があった。
恐怖も、あった。
言い出せないまま、時間は過ぎた。
ともだちにシェアしよう!