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第四十四章・4

 笑顔で診察室から響也のリビングへと戻った、二人。  さっそく、哲郎から贈られたマグカップで、コーヒーをいただいた。 「こういう、カジュアルなカップでコーヒーを飲むのは、初めてだよ」 「哲郎先生、いつもデスクにマグカップを置いてらっしゃいますもんね」  温かな陽だまりと、かぐわしいコーヒーの香り。  穏やかなひとときを味わいながらも、麻衣は不安だった。 『赤ちゃんができなければ一年でお別れ、どころか。このまま添い遂げていただきたいと考えています』  以前、響也の母・凛子に掛けてもらった言葉が、思い出される。  もちろんあの後も、一緒に食事をしたり、お茶を楽しんだり。  凛子とは、交流を深めている。 (でも。響也さんは、どう思っているのかな……)  聞きたい。  彼の、真意を。  心の声を。  だが、その反面、不安があった。  恐怖も、あった。  言い出せないまま、時間は過ぎた。

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