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第四十四章・5
「麻衣、そろそろ支度をしようか」
「はい、響也さん」
麻衣は、気を強く持った。
覚悟を、決めた。
これから、飛鳥の本家を訪問する。
出会いから一年経った今、響也は両親に報告に行く。
残念ながら、子どもは授からなかったという、報告を。
支度をしながら、二人の口数は少なかった。
その空気を察して、二人の執事も静かだった。
ただ、いよいよ玄関のポーチに出た時に、麻衣の専属執事・岩倉が手を強く握ってくれた。
「麻衣さま。必ず、このお屋敷へお戻りくださいませ」
「ありがとうございます、岩倉さん」
響也の専属執事・服部は、言葉身近に主に語った。
「響也さま。男は度胸、でございますぞ」
「解ったよ、服部」
二人の執事が祈りながら見送る中、響也と麻衣を乗せた高級車は本家へと向かった。
車内でも、二人はあまり話さなかったが、響也は麻衣の手をしっかりと握っていた。
「私を信じて、麻衣」
「はい」
ああ、その一言で充分。
不安だった麻衣の胸の内は、澄み渡り晴れた。
恐怖は、跡形もなく消し飛んだ。
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