221 / 230
第四十五章・2
響也の父は腕を組み、母はティーカップを口にした。
麻衣の父は、ただ息子を見て小さくうなずいている。
そんなしばしの沈黙の後、響也の母・凛子は静かに言った。
「では。響也は、麻衣くんとの婚約を解消するのですね?」
「いや、凛子。それは……」
「壱郎さんは、黙ってください」
響也さんに、訊いているのです。
ピリッとした凛子の声だったが、響也はそれに柔らかく応えた。
「いいえ。私は、麻衣くん。いえ、麻衣との婚約を、解消しません」
穏やかだが、芯の入った声だ。
響也の決意が、うかがえる。
そんな、声だった。
「確かに私は、過去に多くの女性を不幸にしてきました」
ただ幸いなことに、凛子が手を打ったおかげで、彼女らは今では幸せになっている。
それを承知で、響也は言った。
「もし何か私に罰をとおっしゃるのでしたら、どんな厳しい制裁でも受ける覚悟です」
ですが。
「ですが、麻衣だけは。私は麻衣とだけは、パートナーとしてこれからも共に歩んでいきたいのです」
「それでも、駄目だ、と言ったら?」
厳しい壱郎の言葉にも、響也は応じた。
「飛鳥の家を、出ます」
力強い、宣誓の響きを持つ、響也の言葉だった。
ともだちにシェアしよう!