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第四十五章・2

 響也の父は腕を組み、母はティーカップを口にした。  麻衣の父は、ただ息子を見て小さくうなずいている。  そんなしばしの沈黙の後、響也の母・凛子は静かに言った。 「では。響也は、麻衣くんとの婚約を解消するのですね?」 「いや、凛子。それは……」 「壱郎さんは、黙ってください」  響也さんに、訊いているのです。  ピリッとした凛子の声だったが、響也はそれに柔らかく応えた。 「いいえ。私は、麻衣くん。いえ、麻衣との婚約を、解消しません」  穏やかだが、芯の入った声だ。  響也の決意が、うかがえる。  そんな、声だった。 「確かに私は、過去に多くの女性を不幸にしてきました」  ただ幸いなことに、凛子が手を打ったおかげで、彼女らは今では幸せになっている。  それを承知で、響也は言った。 「もし何か私に罰をとおっしゃるのでしたら、どんな厳しい制裁でも受ける覚悟です」  ですが。 「ですが、麻衣だけは。私は麻衣とだけは、パートナーとしてこれからも共に歩んでいきたいのです」 「それでも、駄目だ、と言ったら?」  厳しい壱郎の言葉にも、響也は応じた。 「飛鳥の家を、出ます」  力強い、宣誓の響きを持つ、響也の言葉だった。

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