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第四十六章 スタート
『Nice talking to you』
(お話できてよかったです)
「I’m leaving for today. See you tomorrow」
(お先に失礼します。また明日、よろしくお願いします)
響也は最後に笑顔を残すと、リモート会議から離脱した。
麻衣との結婚を決めた日から、二週間が過ぎていた。
今では仕事に復帰し、忙しい日々を送っている。
とはいえ、以前のように無茶な働き方はしない。
ちゃんと健康に留意したスケジュールで、動いている。
そして、麻衣を大切にする時間も、持っている。
「今日は、きちんと定時で帰るように言われたからな」
それで、リモート会議も少し早めに終わらせたのだ。
響也の会社は、本格的に宇宙ビジネスに乗り出した。
当初は単独で展開していくつもりだったが、やめた。
多国籍で構成され進められている、月面基地建設プロジェクト・ディアナ計画に参画するよう、方向転換したのだ。
先ほどの会議も、その一環だ。
国際パートナーたちとの話し合いは、大切な業務だった。
「一人より、二人で何かを作る方が楽しいって、麻衣に教えてもらったからなぁ」
響也は、デスクに飾られた愛猫・ミドリを模った置物を撫でた。
だから月面基地も、大勢でわいわい言いながら、計画を進めている。
それは、とても楽しい仕事だった。
『僕でしたら。まず、月面基地の建設に着手します。
そして棟上げ式を開き、月のウサギさんと一緒についた、お餅をまきます!』
初めて会ったパーティーでの、麻衣の無邪気な言葉が、思い出される。
「月で、一緒に餅を撒こうな。麻衣」
響也は自然と、笑顔になった。
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