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「雄吾まで卒業延ばす必要なかっただろ」
「それは俺も言ったんですけどねぇ……あ、でも、雄吾の意外な才能見つけて!」
カウンターの上を創介さんが指さして雄吾さんが寝ていて動けない創介さんの代わりに俺がそこにあったファイルを手にする。
「これこそ学生優先の講義で『文字デザイン』なんですけど……よくないですか?これで店のメニューとか雄吾に書いてもらおうと思って!」
莉音さんも音楽教室である実家でピアノとアコースティックギターの講師をしているらしくその文字に食いついた。
「こういうのって頼むと結構するもんなぁ!」
オシャレな和紙に書かれた味のある文字。
光沢のある黒い紙に配置されたスタイリッシュな文字。
どれも芸術作品のようだ。
「すっげ……」
思わず呟くと嬉しそうな創介さんと目が合った。
「あ!」
その瞬間、雄吾さんが勢いよく起き上がってビクッと跳ねてしまう。
「えーっと……な!」
フラつきつつも立ち上がった雄吾さんは奥の部屋に入って行ってにこにこしながら真っ白の薄い箱を持ってきた。
「はいっ!琉生くんと宮くんへ引っ越し祝いっ!」
「ありがとうございます」
お礼を言うと頭を下げた宮部と目を合わせてその箱を開けてみる。
「額縁?」
テーブルの向こうから覗いていた莉音さんの呟きを聞きながら目に入って来たのは真っ白な額縁で、そこにはデザインしたようなオシャレなピンクのハートがあった。
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