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「えっと……その……挿らなくて……」  オムライスを見つめたまま自分でも萎んでいく声に情けなさを覚える。 「そりゃ、前戯が足んないんだろ?」  創介さんは何でもないように答えてまたスプーンを口に運んだ。 「そうなんですけど……指、さえ挿らないものですか?」  もうわからなさ過ぎて縋るような気持ちだった。  男女でさえ経験もない童貞で、ネットとかでは調べたもののそんなうまくはいかなかったなんて。 「お互い緊張してたんだろ?」 「え?」  まさかの柔らかく微笑まれて反応に困る。 「初めては緊張するよな。俺も女なんてわかんないくらい抱いたのに雄吾を前にした時、一瞬で思考なんてフッ飛んだもんな」 「……そういうモン、です……か?」 「そうじゃね?好きだから大事にしたいし、でも、好きだから触れたい……なのに、見たことない姿に理性なんて保っていられない……だろ?長年想ってるとな」  困ったように笑う姿を見てただゆっくり頷いた。  そういえば、創介さんも高校から雄吾さんに片想いをしていて、付き合うまでは彼女で誤魔化したり遠回りしたって聞いたのを思い出す。 「うまくいかないって!でも、二人らしく進めばいいんじゃね?」  オムライスを平らげた創介さんはグラスを持って笑った。 「俺ららしく……」 「そ、宮くんなんてかなり奥手そうだしな!だから、雄吾が余計なことして申し訳なかったんだけど……」  グラスを置いた創介さんに笑って首を振る。  雄吾さんが居たから宮部は準備なんてかなり大きな一歩を踏み出してくれたんだし、創介さんが居たから今、俺は覚悟を決めたんだ。

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