98 / 117
98
とにかく野菜を切って煮込む。
じゃがいも、人参、玉ねぎ、キャベツ、しめじ、ウインナー。
宮部ほど手の込んだ料理はできないし、俺が作れるものなんてたかが知れている。
俺が作ると言った時点で宮部も大体何が用意されているかわかっているだろう。
『終わったから帰るね』
いつもは来ないそんなメッセージを目にして、笑いながら俺は炊飯器の中身をかき混ぜて冷蔵庫から卵と牛乳とめんつゆを出した。
俺はもう焦るつもりはない。
あいつとただヤりたいだけじゃないから。
創介さんから聞いた“一ヶ月”で、俺の中の何かが吹っ切れたことをちゃんとあいつにも伝えたかった。
卵を割って牛乳とめんつゆを入れてからかき混ぜる。
フライパンに油を引いて流し込むと、いつもやっている宮部の姿を思い出す。
そういえばご飯……と火を止めて慌てて皿に赤く炊きあがっているご飯を盛り付けた。
フライパンを傾けてうまくズレてこない卵と格闘する。すると、
「ただい……ま」
もう帰って来たらしく、ドアを開けた宮部がフッと笑いを零した。
「笑うな」
「だって……」
ソファーにカバンを置いて宮部はカウンターから顔を出す。
「そこからは僕がやろうか?」
「俺がやるっつっただろ!」
意地になってフライパンを振ると、卵が破れてご飯の上に半分だけが落ちた。
「……」
「はい、もう一つ頑張って」
こっちに来て横から菜箸でフライパンに残った卵もご飯の上に落とすと、宮部はそのグチャグチャの卵の乗った皿を持って歩いていく。
ともだちにシェアしよう!