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「もういいとは言わねぇんだな」 「ん?だって村瀬くんがやるんでしょ?」  カウンターのイスに座って宮部は器用に破れた卵を菜箸で整えた。  それを見ながら卵を割ってもう一枚チャレンジをする。  宮部は本当にただ座っている。  あれこれ口出しもしてこない。 「あー、うまくいかねぇ!」  ガシャンとフライパンを置くと、宮部は両手を出してその皿を受け取った。 「でも、こっちの方が綺麗にできてるよ?」  にこにこ笑って皿を置いた宮部を見てからポトフを器によそってカウンターに置く。  グラスを出してお茶を注ぐと、スプーンを持ってきた宮部はにこにこ笑って両手を合わせた。 「食べよ!せっかく村瀬くんが作ってくれたんだからさ!」  こいつのこういうところ。  俺もイスに腰掛けると丁寧に挨拶をしてから宮部は破れた方の見た目最悪のオムライスをスプーンに乗せた。 「うん!おいしいよ!」 「そりゃ、市販のミートソースぶっ込んで炊飯器が頑張ったからな」 「ふふ、静華さんが作るのと同じ味がする」 「悪かったな!姉弟揃って手抜きだよ」  スプーンを置いて宮部の脇に手を入れると、宮部がビクッとしてスプーンを落とす。 「もぅ……」  少し膨れた宮部の頬に手を添えると、宮部の顔が少し赤くなった。  そのまま顔を近づけて少しだけ唇を合わせる。 「食ったら、少し話しねぇ?」  こくりと頷く宮部のスプーンを拾ってキッチンから新しいのを渡すと、宮部は両手で受け取って少し俯いた。

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