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第8話

 フルにはショック過ぎたんだろうと、しでかしたことにいらいらと頭を掻いた。 「あー……フル、あの」 「っ!」  ビクッと肩が跳ねて、反応はそれだけだ。  なんと言って謝ればいいのか、何を言えば慰めになるのかわからず、曇り空を切り抜く窓の方へと視線を投げる。  今にも雪が降るんじゃないかと思わせる空を見てから、もそもそと体を起こすフルへと顔を向けた。   「  その、だ。」  勢いでやらかしてしまったと、無責任なことを言っていいものかと顔をしかめていると、目の縁を赤くしたフルがこちらを見てからカパっと足を開いた。 「ひぃぁ⁉」 「ん いいよ、三太の好きにして」 「いやいやいやいや、閉じろ!」  無理矢理閉じようとする俺とは逆に力が籠り、引っ付けた膝小僧がじりじりと離れて行く。  それを慌てて押さえ込むと、フルはじっとこちらを睨んでくる。    じぃっと睨まれると、その両目の奥に不満の感情が溢れ出しているのに気づいた。 「何っ……何やってんだよ⁉」 「っ?だ、だって、え、えっちするなら入れないと」 「あほかっ!」  気を抜けばまたぱかっと開いてしまいそうな足を脱いだスウェットで縛り、ぽいと放り出す。  ラグの上で芋虫のようにもぞもぞと動くフルの尻を眺めて……何も思わないわけじゃないが、だからと言って手を出していいわけじゃない。  俺が護ってやらなきゃいけないのに……   「そんなこと軽々しく言うんじゃねぇ!」 「軽々しくなんて言ってないよ!」 「今のこの状況が軽々しいって言ってんだよ!」 「軽々しくないもん!」  ジタバタともがいて、フルはスウェットの戒めを放り出す。 「気付いてるんだろ⁉」 「何がだ!」 「お……俺がっ三太のことを大好きだって!」 「好きだからって、簡単にこんなことをするのは違うだろっ!」 「ちが ちが……ぅ、けど」  尻すぼみの言葉を表わすようにフルの首が項垂れて、肩も落ちる。  じもじと指先を弄り始めるその姿は、小さい頃に叱られて説教を聞く時の態度だ。 「でも、俺は  三太のこと、好きだもん」    涙を堪えた目でこちらを見上げて呻く姿は、お菓子がどうしても欲しいと駄々をこねる姿と同じだ。   「そう言うのはまだ早い!」  きつく言うけれど……  もう数日後には成人するフルにとっては、恋愛もセックスも早いと言うことはない。  むしろ、最近の若者事情を考えるなら、今までおぼこく育ててしまったと思うくらいだ。  環境が環境だったから、俺に依存することと俺が好きなのを混ぜてしまったのだろう……と納得することは簡単だった。  なのに、フルがいつかさっきのように誰かを好きだと言うのだと思うと、なんとも言えないもやもやとした感情が胸をじくじくと刺激する。  

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