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第9話

 普通の家庭がどれほど子供に手厚くしてやっているのかの判断は、俺にはできないことだったけれど思いつく限り手をかけ心を砕いて育ててきた大切な、大切な、大切なフルが……    訳のわからん奴を連れてくるのかもしれないと思うと……ぐっと胸をつかえさせるようなものがある。 「軽々しく、三太を好きって言ってるんじゃない。俺は、ずっとずっと、三太のことが好きだよ?」  乱れた服の裾をくいくいと引かれて、いつかこの手が俺の手を振り払って違う手を掴むのだと思うと、どうしてだかひどく不愉快になった。 「早いって言うなら、何歳になったらいい?幾つになったら三太の恋人になれる?……」 「おおお、おれ、俺は……」  俺は、フルの親だから と言う言葉がつっかえる。  いつもいつも繰り返してきた言葉なのに、どうしてだか縋るように見つめてくるフルにその言葉を投げかけることはできなかった。    ◇   ◇   ◇   「ダメッリボンにするの!」  愛らしい顔立ちとどんぐり眼に睨まれて、ツリーに飾ろうと持っていた飾りを下ろした。 「あのぉ、姫。リボンはもういいような気が……」 「やぁっ!」  そう言うと小さい手で一生懸命自分の背丈以上のツリーにリボンを結び始める。  最近、いっぱい練習してちょうちょ結びができるようになったのだと、姫の父親が自慢気に言っていた。  お陰で、クリスマスツリーの下三分の二は色とりどりのリボンでぎっしり埋め尽くされていて、枝が今にもしなりそうだ。 「フルちゃんは上の方、やってくださいっ」 「あ、はい……」  小さな手に持たれたリボンを受け取って、姫の手の届かない部分に結び付けていく。 「……はぁ」    俺は、三太を襲った日から家出している。  泊めてくれているのは、三太のお店の従業員である羽丹さんの家だ。  娘である姫の遊び相手をしてくれるならいいよって言って快諾してくれたのは有り難かったけど、家出した俺の状況が三太に筒抜けになっているんだろうなって思うと居心地が悪い。    なぜなら羽丹さんが店の余り物だって持って帰ってくるご飯は全部、俺の好物ばかりなんだから。  三太が持たせてるのが丸わかりだ。  こんなことをするなら、迎えに来てくれればいいのにって思うと、ちょっと泣きそうになってくる。       『こう言うのはっ!告白したりとか、デートして手を繋いだりとか、キスしたりとかして、そう言うのを終えてからだ!』  って怒鳴られて、「好きだって言ったし、一緒に遊園地にも行ったし、手も繋いだし!ちゅーだってしたもんっ」って思わず言い返してしまって…… 

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