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第10話
そう言うんじゃないって言うのは良くわかっている。
三太が好きだって言ってくれたのも、遊園地に連れて行ってくれたのも、手を繋いだりキスしたりしたのもすべては三太が俺を息子だって思っているからだ。
俺は、三太にとってそれ以外の何者でもないんだ。
よくわかってる。
三太がいい父親であろうとしていることも、わかってる。
それでも、俺は三太が……
「今日、店に来い」
電話越しに久し振りに聞いた三太の声はぶっきらぼうで、その短い言葉では怒っているのか怒っていないのかの感情を読み取るのは難しかった。
もう帰ってくるなと言われたらどうしようって思い始めると不安で、できるなら逃げ出したかったけれどいつまでも羽丹さんの家にいるわけにもいかないってわかってる。
街中にある、小さな夜のお店の前でそんなことを考えながらうろうろしていると、さっと扉が開いて三太が顔を見せた。
「おう、さっさと入れ、補導されるぞ」
「さ、されないよ!」
とは言え、身分証の提示を求められるのはしょっちゅうだ。
さっさと背中を向けて店の中に戻っていく三太は……ちょっと、痩せたかな?
「今日……なに?」
広くない店内は人気がなくて、思わず立ち竦んでカウンターに入る三太を見詰めてしまう。
「とりあえず座れ」
「ん……」
差し出されたのジンジャーエールで、店内の明かりでキラキラと金色に光って綺麗だった。
けれどジュースを出されたと言うのが、やっぱり三太が俺を子供としか思っていないのだと表しているようで、むっとしながら光を弾いているタンブラーを押しやる。
「俺、もうお酒飲めるんだけど」
「…………」
三太は答えないまま、左腕につけた玩具のような時計を見て目を細めた。
大人の男がするには、あまりにも幼稚なそれは俺が中学生の時に贈ったもので……
大事に大事に、今でも使ってくれているのが嬉しいと思う反面、子供の自分を見ているようで居た堪れない。
「俺、もう大人なんだよ」
「…………」
繰り返す言葉に返事はなくて、カウンターの椅子に腰かけたままべそをかきそうなのを必死にこらえる。
「 ……っ俺っ子供じゃないっ」
沈黙の先が怖くて、荒げた声を上げた瞬間「はぁ」と大きな溜息を投げかけられて……
「 ────ああ、そうだな」
一瞬、呆れたための溜息かと思ったけれど、そうじゃなくてずっと息を詰めていたんだって言うのが三太を見上げて分かった。
ぽかんとした俺の手を取り、カウンターに伏した三太からもう一度盛大な溜息が零れる。
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