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第12話
◆ ◆ ◆
こっぱずかしいと思いつつも、自分が言ったことなんだからしょうがない。
店から家へと帰る間、手を繋ぐぞとフルの手を取る。
「あったかい、ね」
眉は困り眉のままだし、白い息を吐く口は相変わらずだったけれど、その両目はキラキラとしていて……可愛い。
「でもさみぃな」
空は鈍色で、もしかしたら朝にはホワイトクリスマスになるかもしれない雰囲気だ。
「うん、どうせなら家に呼び出してくれたら寒くなかったのに」
「家に呼び出したら、デートにならねぇだろ」
「へっ⁉」
「んで、あとはキスだな」
驚いて立ち止まったフルに覆い被さるように身を屈めて、ちゅっと音を立てて唇に触れてやると「ぴゃ」って変な声が上がる。
「雰囲気ねぇなぁ」
はは とからかう俺に、フルの拳がぽかぽかと振り下ろされた。
帰り着いた家は二人共でかけていたからかひんやりとしていて、エアコンをつけてもすぐに温まることはない。
鼻の頭を赤くして寒そうにしているフルは、数日振りの我が家の中にあるクリスマスツリーを見てぱっと顔を輝かせる。
「帰ってこないから勝手に飾ったぞ」
「う……、うん」
そこで怒れば家出した自分の非を突かれると分かっているのか、フルは居心地悪そうにしてもじもじと俯く。
「ほら、こっちこい」
「えぇっ!?」
「温めてやる」
「う、ん」
マスをかいている最中の俺に飛びついてきた時の姿を欠片も見せず、フルは小さく身を縮めたまま動かない。
「フール」
「ぅ、あ、だって」
真っ赤な顔で、静かにパニックになっているその姿は嫌がっているわけではないんだろう。
仕方なくひょいと抱え上げて寝室へと連れて行く。
「ったく。緊張しすぎだろ」
「だってっ!俺っおれっ……っ処女だからぁっ!」
「違ったら怒るわ」
そこまで縛りつけた気はなかったが、この年までそんな気配は一切なかったから、フルに悪さをした奴はいないはずだ。
「え、ええぇ、えっちすんの?」
「うん」
正直、突き放すのがフルのためだと思わなくもない。
あんな生活をしていて、そこから連れ出した俺にただ依存しているだけで、寄せる好意は間違いだと幾度も考えた。
俺自身も、ずっと育ててきたフルに対して独占欲を感じているだけかもしれない と。
繰り返し繰り返し考えて、それでも出た答えがこれだ。
「おれっ……おれ、どうしようぅ」
「なんだ?怖いならやめるか?」
「違うよっドキドキして死にそう」
そう呻くフルをベッドに放り出して胸に手を置く。
コートを挟んでいるのに心臓の音がわかるくらいドキドキしているのがわかる。
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