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into u;2;桂
生徒達が片付けを終えて学校を出る頃には19時前になっていた。
「お疲れ様だよねえ、ほんと」
環は珍しく17時頃から練習風景を見学して、今も隣にいる。
「毎日のことじゃん。別になんてことないよ」
「そう?暑いし大変だなーって思っちゃう」
「そんなこと言ったら環だって大変でしょ?大人数に教えてさ、しかも何クラスも教えて、宿題見たり、テストしたり」
「んー、まあ、そうなのかなあ?あんまり大変って思ったことなかった」
「さすができる男は違うよ」
「なに言ってんの桂!桂の方ができる男って感じじゃん」
「できる男コンビだな、テニス部顧問は」
環はけらけら笑った。
帰り支度をして校舎を歩いてたら、保健室の電気がついている。完全下校の時間にはもう消えてるはずなのに珍しい。閉まる間際にケガした子でもいたのだろうか。
「あ、聞いた?」
「何を?」
環の方を見ると、視線は保健室だ。
「保健室、先生変わったんだよ」
「え、こんな半端な時期に?」
「うん。前任の先生いたじゃん?いろいろあって辞めたって」
「ええ…色々ってまたなんかあれだな…」
「新しい先生今日かららしいよ!初日だからまだ残ってんのかな」
「えー、大変だね」
「覗いてみる?」
「え、なんかちょっと緊張するじゃん…用もないのに」
「挨拶しに来てみましたーって!ほら、テニス部も時にお世話になるし」
環は早足で保健室の前まで行って、ドアをノックした。
「失礼します」
頭を下げながら、環の後に続いて入った。
保健室にいたのは、紺色のスーツを着た男性だった。こちらを見たその顔はとても整っていて、なんかこう、見惚れてしまうような感じだった。
「はい………あ、」
「新しい先生ですよね?僕は2年の英語を担当してる、夏目環です。男子テニス部の顧問もしてるので、お世話になることも多いと思って挨拶しに来ました!よろしくお願いします」
「…よろしくお願いします」
だいぶクールに応答する人なんだな…
目が合った。お前はなんなんだって顔してる。
「あ、テニス部の外部顧問の、関野桂です。お世話になります」
「外部顧問?」
「この高校の教諭ではないんだけど、部活の指導専門で勤務してるんです」
「…へー、そういうのもあるんですね」
……ほんとクールな…少し不機嫌そうに見える。
「大沢と言います。よろしくお願いします」
「大沢先生、お願いします!……へへへ」
環はそのクールさに屈せず、にこにこ笑ってる。
「大沢先生って呼んだ方がいいですか?それか…」
「ああーーー!!!もうっ!!」
大沢先生は急に大声で叫んだ。心臓止まるかと思った…!!環はげらげら笑ってる…
「環!!分かってて来たんだろわざわざこんな時間に……」
「だってまだ帰ってなかったんだもん。一緒に帰ろうよソノちゃん」
「呼び方!」
2人は親しげに見える。なんなんだ、知り合い?
「ソノちゃんと僕、いとこなんだ〜」
「え、いとこ?」
「うん!へへ、同じ学校で働くことになるとは思わなかったなー」
「俺も思わなかったよ…生徒いる時に会ったら大沢先生って呼びなよ」
「やばい、自然にソノちゃんって呼んじゃいそう」
「だめ」
「えーーー。あ、でも生徒いない時はソノちゃんでいいんだもんね。桂もソノちゃんって呼んでいいよ!むすーっとしてるけど、慣れたらかわいいから」
「あのねえ、俺のこと動物かなんかだと思ってる?」
「猫ちゃん」
大沢先生は呆れたような顔をしている。けど、ほどけていくように柔らかく笑った。
………笑った、
本当に猫みたいなアーモンド型の目が柔らかく弧を描いて、唇の端もまるで猫みたいに
……これってあれだ、一目惚れってやつだ
「桂?」
「あ、え?」
「すっごいぽやーっとしてたよ?」
「ああ、」
「桂も一緒に帰ろう」
「うん、帰ろう」
「環、同僚のことも下の名前で呼び捨てにするのか」
大沢先生はまた険しい顔に戻っている。
「桂は年も近いし、仲良しだからだよ!3歳年上」
「3年先輩だったら普通はそんな馴れ馴れしく呼ばないから」
「え!」
環は環で、なんかこう小動物みたいな感じがするんだよな……いとこ同士だからそういうとこ似てんのか…?
「だめだった?」
しゅんとしちゃって…!
「だめじゃないよ。こうして仲良くいられるのは嬉しい」
「へへ、面と向かって言われると照れるね!嬉しいんですけど〜」
環はにこにこ笑って、それから大沢先生の方を見た。
「というわけで、みんなで帰ろう!」
くるりと背を向けてドアに向かう環を見て、それから大沢先生を見た。目が合う。お互い少し笑って、それから歩き始めた。
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