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into u;7;桂
まさか保健室にお世話になるとは…しかも自分の負傷で……
鏡で顔を見ると、どうも目の間辺りにラケットが当たったらしいことが分かる。当たった前後は全然覚えてない。ただ、当たった部分と思しきところが赤くなって、その周りが紫になっている。
ちょっと笑えるくらいのひどいアザだ。大袈裟に見える。
「大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です、すみません」
手を洗うついでに、洗面台の鏡を見るのに居座ってしまっていた。そしてここは大沢先生の家…
正直ずっとそわそわしてる。一緒の帰り道も、玄関上がる時も、今もずっとだ。
大沢先生はかわいい。美人だ!と思う。好きなタイプです!って思わず言ってしまいたくなるくらい。男性にそう思うなんてやっぱり不思議でしかたないけど、でも事実だしなあ、
あんまりそう思ってることを態度に出したら迷惑だろうし、我慢しないとね…
先生の部屋は1LDKだった。広くてきれいな部屋。
なんとなく抱いていたクールでツンとしたイメージ…なんかこう、コンクリート打ちっぱなしの壁…みたいな感じとは違って、居心地のいい温かみのある部屋だった。
毛足の長いグレーのラグが敷いてあって、猫足で楕円形の、木目の小さなローテーブルがある。
モスグリーンのソファーには、ラグと同じように毛足の長いグレーのクッションと、同じ素材で淡いピンク色のクッションもある。
「座って下さい」
「あ、ありがとうございます」
「テレビもスマホも見られないし、暇だろうけど…ゆっくりしてて下さいね。楽な格好で…あ、ルームウェア持ってきます。先にお風呂…あ、お風呂かシャワーどっちがいいですか?一応、入ってもらっても大丈夫です。長く入るのはお勧めしないけど…ご飯は今から作るので、あと30分くらいでできると思います。先ご飯でも、先お風呂でも」
………頭打ったせいなのか、もう今めちゃくちゃなんだけど感情が。夢?今もずっと気絶してんのかな?
「先生?」
「…あー…どうしよう」
「いつもはどうしてるんですか?」
「先生はどうしてますか?」
「んー…作る時は先食べます」
「じゃあそうした方が…いや、あれ?そしたらお風呂のタイミングが微妙になっちゃうのか…?」
「……ふふ、」
堪えきれなくなったみたいに、先生は笑い始めた。ほら、大きな目を細めて、唇の端も猫みたいに!
「じゃあ、先お風呂どうぞ!こんなあわあわするんだ、先生って」
「や、しますよ、今むちゃくちゃ緊張してます」
「えー!なんでですか?体、強張ってます?」
「ですね……!!」
手が伸びてきて、二の腕を触られた。
「うわ!すご、筋肉」
余計強張るけどそんなことされたら…!
「力入りすぎてる」
「入りますよ!!」
「あはは、声でか!」
無邪気な面もある、ほんとかわいい
「環が関野先生と親しくしてるのがなんでなのか分かったかも」
「えー?」
「はー、喋ってたらご飯作れない。先生、お風呂行ってください。あと、」
目が合った。
「呼び捨てで呼んでもらってもいいです」
「…へ?」
「………すみませんなかったことにしてください」
「いやいやいやできないできない!そのさん、ですよね」
「……そうです」
「その、がお名前ですか?」
「そうです。草冠の苑、一文字です」
「おお、なんかおしゃれな名前だ」
「関野先生は、……」
「呼びやすいように呼んでください!」
「…あー、」
「そのさん」
そのさんはなぜか首や耳が真っ赤になってる。
……つられて俺も照れてしまうじゃないの…
「か、桂さん、」
おお………!にやけてしまうな…
「……やめます!!関野先生、お風呂入ってきて下さい!!!」
急な大声に、体が跳ね上がった。
そのさんは真っ赤になりながら、背を向けてキッチンへ行ってしまった。
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