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into u;12;苑
「ソノちゃん!!えーーーー!!最高すぎるんだけどっ」
土曜日、環がいつも通りにうちに来た。
それで、関野先生が泊まりに来た時のことを何から何まで話してしまった。
「……ふふ、初日に一緒に保健室行って良かったなあ」
「初めて会ったときは、別になんとも思わなかったのにな」
「なんか本当にソノちゃんと桂、恋人同士になってほしい。そしたらわたし、ふたりの子供みたいになりたい」
「えーーーーなんで子供なんだよ」
「だって桂はパパじゃん」
「俺は?」
「………ママ?」
「ないわ」
「へへ、美人だしそういうことにしとこ」
環は今日はウィッグをつけずに、長めの前髪を丁寧にセットした。少し長いチェーンの先に小さな真珠がついたイヤリングが、髪の隙間からゆらゆら揺れる。それからとてもつやつやして見える可愛らしいメイクをして、ビッグサイズのデニムパンツと、体のラインが女性らしくなるよう整えて、ノースリーブの白いニットを着た。あるべき環の姿になる。
「今日はちょっとだけメンズっぽくした」
「かわいい。よく似合ってる」
「へへ、ありがとう」
今日は車に乗って、また少し遠くへ出かける。
なんとなく今日は外食に挑戦するか!って気分にお互いになったから、個室のあるイタリアンバルを予約した。大きな駅の近くで人がたくさんいるはずだから、微妙に緊張する…
少し離れた駐車場に停めて、環の手を取った。
「エスコートしてくれるの?」
「してあげる」
環ははにかんで、きゅっと手を握った。
やっぱり人の流れがあって、環も少し緊張感のある表情をしている。
「大丈夫?」
「うん、平気。でもちょっとどきどきするね」
「そうだな」
「ソノちゃんとわたし、兄妹みたいに見えてるかな」
「恋人だよ」
「桂に嫉妬されちゃうね!」
「えー?」
くすくす笑いながら、店に向かう。
何件かいろんな飲食店が並んでいて、目的の店はもう少し先。
「あっ、」
環が少しよろけて、体を支えた。
「大丈夫?」
「うん、前から来た人とぶつかっちゃった」
そのまま腰を引き寄せて歩く。
「ソノちゃんソノちゃん、なんか恥ずかしい」
「誰も見てないよ」
バルの前に着いたら、ふたりで顔を見合わせて小さく頷いた。入るよ、いくぞ、そんな感じ。
なんかおかしくて、ちょっと緊張が緩んだ。
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