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into u;13;桂

「うわ!!思ってたよりひでえじゃん」 怪我したから行けなくなったごめん、って連絡したのにも関わらず、しつこい男・竹井太朗にとりあえず来いと言われて店の前までは来た。 「環から聞いてたんじゃないの、怪我のこと」 「聞いてたよ。夏目、ちょっと泣いてたもん」 「え!」 「血も出てるし、保健室の先生来るまで茫然としてたんだ!とか言って」 「そうか…環に悪いことしたな…」 「まあまあ、そんときは俺が励ましといたから。筋肉の塊なんだから死なねえって」 「ひどすぎる」 「いいじゃんその通りなんだから」 「でも今日はあれだよ、ちょっと見た目怖いだろうし、また今度ってことで」 「とりあえず女の子に会ってから撤収して?」 「なんで?」 「分かるだろ!ゆきちゃん」 「ゆきちゃん?」 「関野のこと完全に好きじゃん。だから呼べって強めにお願いされてるわけ」 「いやいや…そう言われてもさ…」 「ゆきちゃんかわいいしいいじゃん。さっさと付き合っちゃえばいいのに」 「あ、いや、俺今はいいかなって。彼女とか」 「はあ!?どうしたんだよ関野!!頭ぶつけたからかっ」 「違うから!」 「いつもの関野と違うっ」 「俺別に彼女欲しいとか公言してなかった気がするけど?」 「えーーーー」 竹井はしつこいことこの上ない!良い奴なんだけどな 「とにかくこの顔じゃあれだし、ごめんねって言っといて!今日のところは帰る」 「じゃあ写真撮っとこ」 「えーーー」 鼻から下はマスクして隠したけど、撮られた写真を見たらしっかりとあざが主張している。 「痛そう」 「痛いよ多少は」 「見せとくわ、ゆきちゃんに」 「うん…」 別に良いけどな見せなくて… とりあえず竹井と別れて、駅に向かって歩き始めた。人がすごい。 誰も俺の顔なんて見ない…と思いながらも、やっぱり時折ぎょっとされてる気がする。 目元だけでも結構インパクトあるもんな… 飲食店が並んだ道を歩いていく。 おいしそうな店ばっかりだなこの辺。テイクアウトして帰ろうかな、と思いながら見てたら、 「あ、」 …って思わず声が出てしまった。 そのさんがいる! ……女性の腰に腕を回して、店に入っていく…… めちゃくちゃ優しい笑顔でその女性を見てる… ………まあ…そうだよな…普通にいるだろうよ… なにをそんな本気で期待してたかな俺! いや、期待してたよ、もしかしたら、そのさんが押し負けてくれて恋人みたいになれるかも、とか でも、遠目にだけど完璧な美男美女の、すごい良い感じのふたりだった。 あー、これはもうどうしようもないか、 …変な失恋気分を味わいながら、カレーをテイクアウトして帰った。 次の日、そのさんにメッセージを送った。 本当はすぐにでも会いたいと誘うつもりだったけど、気が引けた。 改めてお世話になったことの感謝と、お盆が明けたらぜひご飯食べに行きましょう、という、なんとも緩い文面になってしまった。

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