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into u;16;苑

先日はありがとうございました!だいぶケガもよくなって、すっかり復帰しました。夏休み、結構仕事立て込みますよね…!お盆が明けたらぜひご飯食べに行きましょう。 ………と、連絡が来た。 へえ、盆休みまで1ヶ月弱。味気ない文面。 随分と感情を揺さぶってくるな、と思った。悪い意味で。 好きだとか、もっと親しくなりたいとか色々言ってたのに。間違ったカタチの社交辞令だった? できるだけ忘れようと思った。 夏休みは積み上がった書類をやっつけなきゃだし、考えないでおくには都合も良かった。 それに、忘れるのにもってこいの出来事も起こっている。夏休みなのに、わざわざ保健室に来る生徒が現れた! 渡辺都、という3年男子。 ふらっと来てちょっと喋って、それから絵を描いて過ごしている。なんで来るのかは謎だけど、本人なりにもやもやするようなところがあるんだろうな、と思っている。 今日は昼前にはスケッチブックを持って入ってきて、勝手にカーテンを開けて、窓際の丸イスに座っている。肩につくくらいのさらさらした派手な金髪が顔を隠していて、全く表情は見えない。ただ、かなり端正で目を引く顔のつくりであることは確か。 「何描いてんの?」 「んー?外描いてる」 スケッチブックを覗き込んだら、めちゃくちゃ抽象画だった。本当に外を見て描いた抽象画なのか、外を見てるっていうのは適当に口にしただけなのか、いまいちよく分からない。 そしてそれをわざわざ聞くべきかも、養護教諭という職業柄、丁寧に考えないといけない。 「…今、俺のことやべえ奴だと思ったでしょ」 渡辺都はこっちを見て不敵な笑みを浮かべた。 切れ長の目が鋭く、唇の右端だけが引き上がる。 「普通に外じゃないから。内面内面」 「ピュアじゃん内面」 抽象画の感想。 「ほんとー?嬉しいー」 「棒読みめ…」 「あはは!ソノもピュアだよね」 「……ん?」 「ん?」 「お前今なんて言った?」 「ピュアだよね」 「いや、全部言って?」 「ソノもピュアだよね」 「お前俺のこと呼び捨てか!!」 「え?だめ?」 「いやいやいや先生なんですけど!!しかもなに、下の名前知ってんの」 「だってお知らせのプリントに書いてたじゃん。『7月より、大沢苑教諭が養護教諭として赴任致します』」 「そういうのちゃんと読むんだ」 「読むよ」 「へー」 「もっと俺に興味持ちなよ!!」 「持ってんじゃん充分。夏休み入ってから毎日のように会ってるし」 「なんで受け入れてんの?」 「え?別に来て落ち着くなら来れば?って思って。俺も学生の頃そんな感じだったし。さすがに夏休みは通わなかったけど」 「そうなんだ。だからかな。前の保健室の先生のときは行く気にならなかったけど、ソノがいると居心地いい」 「そう?よかった」 渡辺都は、素直に子供らしく笑った。 「ソノも呼び捨てでいいよ。俺の名前知ってる?」 「知ってるよ、利用帳に毎日書いてんだろ」 「俺は自分の名前が嫌い」 「えー、じゃあ渡辺って呼ぶ?」 「いや、都って呼んでみてくれない?」 「いいけど」 なかなか曲者だな。 本人なりの考えがあるんだろうなと思う。 「都、昼ごはんどうすんの?」 少し目が泳いだ。 「一緒に食べよう」 そう言ったら、都はまた子供らしく笑って頷いた。

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