17 / 120

into u;17;苑

都と一度昼を一緒に食べたことにより、ほぼ毎日一緒に食べる習慣がついた。むしろ、少し前に2,3日来なかった時はなんかあったのかと心配になったくらい…… 話もたくさんするようになった。 どうも都は、名前の響きのせいで割と面倒な思いをしてきたらしい。俺に下の名前で呼べと言うのは、本人曰くリハビリなのだそうだ。 「やっぱさあ、自分のことを好きだって思えないと、誰かを好きになるのって難しくない?って思って」 菓子パンを頬張りながら、都は語った。 「なに、人生何回か送ってきた感じ?」 「違うし。何回も送ってたら苦労してないし」 「そう?」 「そうそう。何回も人生を経験してたら、普通に好きな人に好きって言えるよきっと」 「…そうかねえ?」 「ソノは好きな人いんの?」 「んん……」 ……不覚にも、頭を過ったのは関野先生だった。あれ以降何の連絡も来ない。もうすぐお盆休みなのに。本当に社交辞令だったんだな、 「いるんだね、好きな人」 「忘れようと必死だよ今」 「えー、勿体なくない?」 「…都はどうなの?」 「俺?いるよ。でも絶対に叶わない」 「なんで?2次元?」 「違うし。何日も一緒にいて、俺がそういうのにちょっとでも興味ある雰囲気出した?ないでしょ?」 「まあ…そうね…」 「存在してる。だけど、その人は俺のこと、知ってたとしても名前くらいだろうし、春になったら忘れると思う」 「なんで?」 「そういうもんだと思うから」 「ふーん」 「告白するつもりもないけど、でも、せめて最後に挨拶するときは、自分のことを肯定できてるっていうかさ、自信を持った状態で、胸張ってたい」 ………めちゃくちゃしっかり自分を持ってんな… なんも心配いらないじゃん、と思う。なんなら俺よりちゃんとしてる… 「俺から見たら、都は充分胸張って、自信持っていいって思うよ」 「まだまだですよ」 大人なんだか子供なんだか、都はそういうところがすごく魅力的だと思う。 「そうだ、明日から学校休みだよね?」 「そうだよ。お盆休み」 「5日くらいだっけ?」 「詳しいじゃん」 「さみしい」 「一瞬だよ、休みなんて」 「ソノ、今日一緒に帰ろうよ」 「なんでだよ!」 「さみしいって言ったじゃん」 「えーーー」 子供に全振りした都は、宣言通り俺が帰るまで保健室に居座り、一緒に学校を出た。遅くなってしまった。すっかり暗い。 「都、大丈夫なの?遅くなったけど」 「うん、全然大丈夫。食べて帰る?」 「お前は俺の同僚かなんかなの?」 「あー、卒業したらソノと一緒に先生やればいいのかな」 「あ!そうだ、3年じゃん」 「今気づいた?」 「受験すんの?」 「前、一応してきたよ。美大行くつもりだから、夏休みのなんとか入試みたいなやつ」 「え!前来なかったときか」 「そうそう。受かったらいいなー」 都はなんてことないみたいにそう言った。 「ごはん、一緒に食べようよ」 「えー」 「なんかダメとかあんの?」 「別に規定とかはないけどさ…」 「じゃあいいじゃん」 「でも制服だからなー。なんか大っぴらに外食すんのは後ろめたいよ」 「じゃあソノんち行くのは?」 「なんでだよ!!」 ……とか否定してたのにも関わらず、めちゃくちゃ押し切られた…で、都は家に来た。 仕方ないからご飯作って、都は待ってる間ずっと絵を描いていた。 「ソノー」 「んー?」 「なんかスマホの通知来てるよ」 「あー」 ちょうど出来上がったご飯をテーブルに持って行きがてら、スマホを確認した。 「わ!すご!!おいしそうすぎるっ」 「そう?」 環からだった。写真 派手な緑色のジャージを着ている。その隣には、関野先生がいる、 『なんだこの写真』 すぐに返信した。 『かつらにふくもらったよ』 ……どういうことなんだ、 すぐに電話した。 「環!なんなのこの写真!!」 『桂の家来てるんだけど、貰ったんだよ』 「いや何があって服を貰うことがあんの」 『話しちゃった、わたしのこと』 「…おお、」 『それで貰った』 「?いまいち話が繋がらないけど…?」 『桂、隣にいるよ』 「あー」 顔を上げると、都が険しい顔でこっちを見ていた。まずい、なにを俺は生徒の前で怒鳴ったりしてんだ、 「あー…そう、その、あんまり負担かけるなよ、関野先生に」 『どうしたのソノちゃん、なんか変だよ?』 「今忙しいんだよ、」 都はこっちにわざわざ近づいてきて、スマホに耳を近づける。 『そうだったの?珍しいね。こんな時間に忙しいなんて』 「ソノー、誰と電話してんの?」 「こらっ、都!」 電話してんのに大きい声出すか!? 都は笑ってそれから、ソファーに駆け込んで座った。 『ソノちゃん、誰かといるの?』 「え?あ、いや、」 「ソノー、早くご飯食べようよ〜」 「あーーーー!!」 『……ソノちゃん?』 「環、なんでもないから。ほんと気にしないで。じゃあね」 『待って!……今から行く』 「だめだめだめだめ」 『だめ。桂と行くから』 『なんで俺まで!!』 ……電話が切れた。 めちゃくちゃじゃん、最悪! 「あーーーーめんどくさいことになったじゃんかーーー」 「ソノさあ、誰と電話してたの」 「いとこだよ!」 「たまき、って言ってた」 「あー、名前ね」 「…英語の先生に声似てた。あと名前も一緒」 「お、名探偵じゃん。そうそう。夏目環。いとこなの」 「……そうだったんだ」 都はソファーに埋まるように座って、思案げな表情で唇を触り始めた。……めちゃくちゃ絵になるなこいつ…! 「とにかく食べよう、来ちゃうかもしんないから」

ともだちにシェアしよう!