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都と一度昼を一緒に食べたことにより、ほぼ毎日一緒に食べる習慣がついた。むしろ、少し前に2,3日来なかった時はなんかあったのかと心配になったくらい……
話もたくさんするようになった。
どうも都は、名前の響きのせいで割と面倒な思いをしてきたらしい。俺に下の名前で呼べと言うのは、本人曰くリハビリなのだそうだ。
「やっぱさあ、自分のことを好きだって思えないと、誰かを好きになるのって難しくない?って思って」
菓子パンを頬張りながら、都は語った。
「なに、人生何回か送ってきた感じ?」
「違うし。何回も送ってたら苦労してないし」
「そう?」
「そうそう。何回も人生を経験してたら、普通に好きな人に好きって言えるよきっと」
「…そうかねえ?」
「ソノは好きな人いんの?」
「んん……」
……不覚にも、頭を過ったのは関野先生だった。あれ以降何の連絡も来ない。もうすぐお盆休みなのに。本当に社交辞令だったんだな、
「いるんだね、好きな人」
「忘れようと必死だよ今」
「えー、勿体なくない?」
「…都はどうなの?」
「俺?いるよ。でも絶対に叶わない」
「なんで?2次元?」
「違うし。何日も一緒にいて、俺がそういうのにちょっとでも興味ある雰囲気出した?ないでしょ?」
「まあ…そうね…」
「存在してる。だけど、その人は俺のこと、知ってたとしても名前くらいだろうし、春になったら忘れると思う」
「なんで?」
「そういうもんだと思うから」
「ふーん」
「告白するつもりもないけど、でも、せめて最後に挨拶するときは、自分のことを肯定できてるっていうかさ、自信を持った状態で、胸張ってたい」
………めちゃくちゃしっかり自分を持ってんな…
なんも心配いらないじゃん、と思う。なんなら俺よりちゃんとしてる…
「俺から見たら、都は充分胸張って、自信持っていいって思うよ」
「まだまだですよ」
大人なんだか子供なんだか、都はそういうところがすごく魅力的だと思う。
「そうだ、明日から学校休みだよね?」
「そうだよ。お盆休み」
「5日くらいだっけ?」
「詳しいじゃん」
「さみしい」
「一瞬だよ、休みなんて」
「ソノ、今日一緒に帰ろうよ」
「なんでだよ!」
「さみしいって言ったじゃん」
「えーーー」
子供に全振りした都は、宣言通り俺が帰るまで保健室に居座り、一緒に学校を出た。遅くなってしまった。すっかり暗い。
「都、大丈夫なの?遅くなったけど」
「うん、全然大丈夫。食べて帰る?」
「お前は俺の同僚かなんかなの?」
「あー、卒業したらソノと一緒に先生やればいいのかな」
「あ!そうだ、3年じゃん」
「今気づいた?」
「受験すんの?」
「前、一応してきたよ。美大行くつもりだから、夏休みのなんとか入試みたいなやつ」
「え!前来なかったときか」
「そうそう。受かったらいいなー」
都はなんてことないみたいにそう言った。
「ごはん、一緒に食べようよ」
「えー」
「なんかダメとかあんの?」
「別に規定とかはないけどさ…」
「じゃあいいじゃん」
「でも制服だからなー。なんか大っぴらに外食すんのは後ろめたいよ」
「じゃあソノんち行くのは?」
「なんでだよ!!」
……とか否定してたのにも関わらず、めちゃくちゃ押し切られた…で、都は家に来た。
仕方ないからご飯作って、都は待ってる間ずっと絵を描いていた。
「ソノー」
「んー?」
「なんかスマホの通知来てるよ」
「あー」
ちょうど出来上がったご飯をテーブルに持って行きがてら、スマホを確認した。
「わ!すご!!おいしそうすぎるっ」
「そう?」
環からだった。写真
派手な緑色のジャージを着ている。その隣には、関野先生がいる、
『なんだこの写真』
すぐに返信した。
『かつらにふくもらったよ』
……どういうことなんだ、
すぐに電話した。
「環!なんなのこの写真!!」
『桂の家来てるんだけど、貰ったんだよ』
「いや何があって服を貰うことがあんの」
『話しちゃった、わたしのこと』
「…おお、」
『それで貰った』
「?いまいち話が繋がらないけど…?」
『桂、隣にいるよ』
「あー」
顔を上げると、都が険しい顔でこっちを見ていた。まずい、なにを俺は生徒の前で怒鳴ったりしてんだ、
「あー…そう、その、あんまり負担かけるなよ、関野先生に」
『どうしたのソノちゃん、なんか変だよ?』
「今忙しいんだよ、」
都はこっちにわざわざ近づいてきて、スマホに耳を近づける。
『そうだったの?珍しいね。こんな時間に忙しいなんて』
「ソノー、誰と電話してんの?」
「こらっ、都!」
電話してんのに大きい声出すか!?
都は笑ってそれから、ソファーに駆け込んで座った。
『ソノちゃん、誰かといるの?』
「え?あ、いや、」
「ソノー、早くご飯食べようよ〜」
「あーーーー!!」
『……ソノちゃん?』
「環、なんでもないから。ほんと気にしないで。じゃあね」
『待って!……今から行く』
「だめだめだめだめ」
『だめ。桂と行くから』
『なんで俺まで!!』
……電話が切れた。
めちゃくちゃじゃん、最悪!
「あーーーーめんどくさいことになったじゃんかーーー」
「ソノさあ、誰と電話してたの」
「いとこだよ!」
「たまき、って言ってた」
「あー、名前ね」
「…英語の先生に声似てた。あと名前も一緒」
「お、名探偵じゃん。そうそう。夏目環。いとこなの」
「……そうだったんだ」
都はソファーに埋まるように座って、思案げな表情で唇を触り始めた。……めちゃくちゃ絵になるなこいつ…!
「とにかく食べよう、来ちゃうかもしんないから」
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