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into u;20;桂
寝室から出てきた環とそのさんは、何事もなかったみたいな雰囲気だった。
ふたりは並んでキッチンに立って、すごい早さで準備をして、テーブルに2人分のご飯を並べた(今日は豚丼と野菜がたくさん入ったお味噌汁だった)。
「都、おかわりあるけど食べる?」
「食べる」
「じゃあソファーで食べて」
「はーい」
俺と環はテーブルに向かい合わせに座って、都はソファーで、ご飯を食べた。
「渡辺君、食べ終わったら先生と一緒に帰ろう」
環はそう言って、都に笑いかけた。
都は「はい」と返事した。表情は固い。
「来週の木曜日からでしたっけ、学校開くの」
「そうそう。都は何か予定あんの?」
そのさんは親しげに聞いた。
「んー、別になんもないな…なにしよう……」
「絵は?」
「絵は休みじゃなくても描いてるよ。さっきは桂先生描いたよ。見る?」
完成してたんだ、早いな描くの、
「見せて見せて!」
環はティッシュで口を拭いながら、ソファーに近づいた。
都はスケッチブックを取り出して、ページを開く。そのさんも隣から覗き込んでいる。
「わーーーー!桂だ!!」
「すご」
「筋肉を描きたいから、近いうち脱いでもらおうと思います」
「!!」
吹きそうになった。
「都、お前なに言ってんの」
そのさんはむちゃくちゃ冷めたトーン…
「だって、デッサンにもってこいじゃん」
「いやいや、だって服着た状態しか見てないんでしょ?脱ぐも何も、中身見たことないんだし。デッサンにもってこいか分かんないだろ」
「さっき抱きしめてもらったから分かる」
「おーーーーい!!!」
ほら環もそのさんもすごい目で俺を見てるだろ!!
「……へー、桂ってスキンシップ激しいなと思ってはいたけど、そんな感じなんだ」
「違うって!!なあ都、」
「あ、呼び捨て」
「待ってよ!呼び捨てでいいって言うんだもん都が!ねえ?」
都は小さく頷いてサムズアップする。それから食べ終わった食器を持って立ち上がった。
「ごちそうさまでした」
「はいよ」
環と俺も食べ終わって、食器を台所に運んだ。
「じゃあ、桂に洗ってもらおっか。それで、渡辺君と僕は帰ります」
「待ってよ、そんな洗うのかかんないから、3人でお暇しよう」
「渡辺君の帰りが遅くなるのはダメなので、僕が責任をもって最寄り駅まで送り届けます」
環は手を腰にあてて、眼光鋭くそう言った。
もうこれは絶対ブレないな。環は頑固なところがあるから、
「あの、夏目先生」
「なに?」
「1人で帰れます、俺は大丈夫です。ソノに用事があって来たんじゃないんですか?別に一緒じゃなくても」
「いや、ソノちゃ……大沢先生とはしょっちゅう会うしね。大丈夫だよ、一緒に帰ろう!……あ、嫌かな、僕と帰るの」
都の切れ長の目は大きく開いた。
「そんなわけないです」
「そう?良かった。じゃあ大沢先生、桂…あ、関野先生」
「さっきから桂とかソノちゃんとか呼んでましたよ」
「はは、そっか、ごめんね。仕事の気分抜けちゃってつい…!」
環は都に近づいた。身長差が結構ある。環はほんの少し見上げるような感じで、都の耳元に口を近づけた。
「みんなには内緒にしてて下さい」
ウィスパーボイスは台所までダダ漏れていたけど、都は小さく頷いた。
「じゃあ帰るね!また連絡しまーす」
「おじゃましました。ソノ、ご飯また食べに来るね。桂先生もまた会って下さい」
2人は本当に帰ってしまった。
洗い物はもう終わってしまった。
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