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into u;21;桂
「環、話したんですね」
そのさんはソファーに座っている。グレーのクッションをつかんで、膝に乗せた。
「はい、聞きました。知らないうちに傷つけてたこともあったかもしれないなって思います…」
「別にそんなことないと思います。環は関野先生のこと相当信頼してるし、好きだし」
「そうだといいけど」
今思えば、バージンロードで泣いて抱き留めるって言うのも、環に不快な思いさせたかも……
ああ、なんか急に思い返してしまった、
ざらついた気分になる…
「あと、見られてたって聞きました。俺と環が外にいるのを」
「あ、……あー、…はは、すごいショックでした、あの時」
「なんでですか?」
「いや、いるんかい彼女!って思いました。好きだったのに、って。…環と話した時にも言ってたんですけど、彼女がいないとしても、じゃあ俺と付き合って下さいとか、ちょっと無茶苦茶だよな、って…不快な思いをさせてしまって、申し訳ない」
俺は環にもそのさんにも不快感を与えたのか、と思うと切ない……
「あなたは本当に、本気で好きだったのにって思ってたんですか?俺に対して」
そのさんはどこか一点を見つめながら言った。
横顔が美しい。
「思ってますよ。前来させてもらった時も言ったかもしれないけど、大好き、かわいい、本当に好み」
「僕はきっと恋人にすごく嫉妬します」
ぱちん、ぱちん、と小さな音がするのは、そのさんの指先から出る音だった。爪と爪を弾いて出る、神経質な小さな音。
「だけど、絶対に束縛はされたくない」
こちらを向いた。目は大きく開いて光っている。眼光の鋭さは、環と似ているんだなと思った。
「誰にでも優しくする人には、きっと耐えられない」
「待って、相手が男ってところでは、躓かないですか?」
「躓きません。俺は男しか好きになれないから」
すごくサラッと言われた。
「この際言いますけど、誰とも付き合ったことはありません」
「うそでしょ」
「嘘じゃない。セフレしかいません。……あ、このことは絶対に環には言わないで下さい…内緒なので…」
「い、言わないけど、……」
「軽蔑しますか?」
「しませんけど、」
「とにかく、俺はあなたとは付き合えない」
……めちゃくちゃ振られたな今…
「……そうですか、」
心臓がバクバク言うのが聞こえる。
そうか、振られたのか、
そうやって噛み締めるたびに、かなり胸が痛い。苦しい。
どうしたら挽回できる?
何が俺には足りない?
いろんな思いがごちゃごちゃに混ざり合う。
食い下がろうか、泣いてしまおうか、
だけど、そんなことをしてそのさんを…大沢先生を煩わせたいとは思わなかった。
「はは、振られました、残念」
悲しい、苦しい
「じゃあ、…そうだな……また…そうだ……ほら、ケガした時お世話になったお返しできてないから、環も誘って一緒にご飯食べましょう!奢ります。スケジュール、環伝いに調整したら楽ですかね?とりあえずじゃあ、今日はこれで失礼します!急に押しかけちゃってすみませんでした」
そのさんの顔を直視できなかった。
変にへらへらしてしまう。そうでもしなきゃ耐えられなかった。
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