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into u;25;桂

失恋の痛手は大きかった。帰るときもため息ばっかりついてたし、どうにかこうにか寝る支度をして横になっても、眠りも浅かった。 起きてみてもずっとぼんやりしている。 失恋することは初めてじゃないけど、失恋のせいでこんなふうになるのは初めてだ。信じられない。 スマホを見たら、そのさんから着信があった。 すぐにかけ直した。…出ない、 何回か繰り返したけど、ふと履歴を見たらすごい回数かけ直してたことが分かってやめた。こんなにしつこい自分に嫌気がさした。 やることも思い浮かばなくて無理やり出かけたら、何駅分か歩いてしまった。ジムに行く支度をしてこればよかったな、と思った。でもそう思ったときにはかなり歩いてしまっていたから、諦めた。 そろそろ帰ろう、そう思って近くの駅の改札を潜ったら電話がかかってきた。 『僕はあなたと付き合いたい』 正直、その言葉しか頭に残ってない。 前後も少し話したはずなのに、その声しか思い出せないくらい浮かれてしまっていた。 電車に乗る前後はだいぶ早足で向かった。だから思ったよりかなり早く着いてしまったけど、躊躇わずにインターフォンを鳴らした。 『はーい』 「あれ?」 『今開けるね』 ドアが開いて顔を覗かせたのは、環だった。 「早くない?どうぞ、入って」 「え、環、」 「ソノちゃん、昨日泣きながら寝ちゃったもんだから色々とぐちゃぐちゃでさ。今シャワーしてるからちょっと待っててね」 「うん…」 環はてろっとした生地の、マスタード色のワンピースを着ていた。 胸元に花の刺繍がされていて、……これは男のサガだってことで…と、誰にか分からない懺悔を脳内で繰り返しながら……あるなあ、胸が…と思ってしまった。それに素足が膝から下、見えている。真っ白でめちゃくちゃきれいだ。 顔を見たら、たしかにあの日見た女性と思ってた人は環だったんだ、と思った。 「…見慣れないよね」 「あ、あー、初めて間近で見たからさ、この感じの環を」 「違和感すごいでしょ?」 「違和感って言うのとは違うかな…なんだろ、しっくりきすぎてる…って言うのかな…?それもまた変な表現か…」 「しっくりきてるならよかった」 ドライヤーの音が聞こえた。 そのさんにもうすぐ会えるんだと思うと、座ってられない。 「桂、すっごいそわそわしてる!」 「そりゃね…だいぶ緊張するよね…」 「そうなんだ!なんか、新鮮だなあ」 環はいつもより……いや、いつもが今の環か……学校で会う環よりも、ぽやんとした口調だった。ヒーリング効果がありそうだな、と思った。例えば試合前、ガチガチに緊張した生徒に「大丈夫だよ!応援してるからね」とか言われたら、ふーって肩の力が抜けそう。 「なにが新鮮なの?」 そのさんの声だ、 と思ったときにはもうそちらに体を向けて、腕を広げて、そのさんを真正面から抱きしめた。

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