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into u;29;苑
「はああ〜〜〜」
桂は両手で顔を覆って大袈裟に項垂れて、大きいはずの体が小さく見えた。真っ赤になってる。
「そのさんごめんね、もう、なんて言えばいいのか…」
終わってからまあまあ経ってると思うんだけどな。
もしかして嫌だったのかも、とか、終わってみたら嫌だったのかも、とか、脱がせた時から既に嫌だったのかも、とか、いろいろ思ったから「嫌だったですか?」って聞いたら、首をぶんぶん横に振った。
「申し訳なくて、」
「なんでですか?」
「だって、」
「したいからしただけだから、そんなこと思わないで」
「そのさん、」
「さん付けになってる」
「無意識…」
「今度するとき、また違うふうにできるようにするから。今日はこれが良かった。これで、よかったんですすごく」
隣にくっついて座って、肩を抱いた。
この広い肩に、こうやって触ってくっついていいのは俺だけなんだ、と、思っていいのかな?
ぽんぽん、と太ももを優しく叩かれた。
横を見たら目が合って、微笑まれた。
「泊まってってもいい?今更なこと聞くけど…」
「当たり前でしょ…もう夜中なのに」
「隣で寝ていい?」
「……改めてそういうこと言われたら、なんか困る」
「困るんだ…」
「わ、悪い意味じゃなくて」
「いい意味で困る…?」
「うーん…?」
キスされた。
寝る支度をして、ベッドにふたりで潜り込んだ。手を繋ぐ。桂の手は大きいと改めて思う。
「桂」
「ん?」
「連休、予定は?」
「特に考えてなかったな。部活もないし、ジムの仕事も入れなかったし……あ、」
小さいため息が聞こえたから、顔を見た。
窓から入ってくる月明かりに照らされている。
「竹井の飲み会……最終日…どうしよう……」
「行ってきたら?」
「あー……あの、あれなんだよね、環から聞いたかもしれないけど、」
「あ!もうすぐ彼女ができる………」
………おお…これが恋人に対する嫉妬の感情か……ふつふつとたぎってくるこの感じ………今までに感じたことのある小さな嫉妬を遥かに超える苛立ち…
「…行けばいいんじゃないですか?行って、彼女に告白されて、周りにはっぱかけられて、酒の力にも煽られて、いいよって言ったらいいんです。そしたら電話下さいお祝いしてあげます。僕は関野さんに彼女ができたことを全部受け止める準備をしてセフレに連絡取って」
「そのさん!」
「……なんですか」
「ストーリー作りすぎ!」
「…99%当たるだろう予想です」
「外れる」
「当たる」
「賭けようか」
桂はこちらに寝返りをうった。だからすぐに背中を向けた。腕が回ってきて包み込まれた。
「飲み会は行きたくないんだけど、何回か蹴ってて…だから、さすがに行かなきゃな、と思ってるんだ。その女の人が」
「その女の人、って呼び方するほどよそよそしい関係じゃないんじゃないですか」
「……そうだね、じゃあ、その人はゆきちゃんって人だけど、」
もっといらいらして、内臓がぞわぞわする。
「ゆきちゃんが俺をどう思ってるかっていうのは、直接聞いたわけじゃないからなんとも言えないけど、仮にもし竹井…英語の先生だけど…竹井が言うように、俺と付き合いたいって思ってくれてるんだとしたら、それはちゃんと断らないと。だから、行こうかな、と、思ってる」
ごそごそと布団の擦れる音がして、体がもっと密着する。
「だから賭けよう。もしそのさんの予想が外れたら、一日中俺の好きにさせてくれる?そのさんのこと」
「……ぼこぼこにされるとか…?」
「えー!なんでそんなことするの好きな子に!!しないよ、やめてそんな想像!!」
「一日中ジムで死ぬほど筋トレさせられるとか…」
「それはちょっと面白い」
「ええ……」
「あ、それと一つ別件。…まだ必要かな」
「なにが?」
「セフレは」
「…あー……」
「素直に言うと、すごく嫉妬してる。だけど、まだ俺はいろんなこと分かってないから…なんていうか…満足させられるかも分からないし……だから、必要なら仕方ないのかもしれない、って、思うようにはするつもり。だけど、」
首にキスされた。くすぐったくて体が動く。
「俺だけのそのさんでいてほしいよ」
脳みそ溶けそう、
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