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swear;44;環
新学期になって、授業が始まった。
久しぶりに学校がにぎやかになって嬉しい。
時間はすぎて、秋になって、文化祭のシーズンになった。
準備期間、一層生徒たちが楽しそうに見える。
「夏目先生!」
文化祭の1週間前、テニス部の子達が職員室に来た。
テニス部は誰が言い出したのかメイドカフェをやることにしたそうだ。引退した3年が主にメイドさんをやるとのことで、なんか凄そうだなと若干引いているところ…
「どうしたの?」
「先生に折り入ってお願いがあります」
「な、なに?」
「メイドとして店に出て下さい!」
「ないないないない。あのねえ、顧問とはいえそんなのないから。桂は?桂にお願いした?」
「関野先生には執事の格好させるって言ってました」
「誰が?ねえ、誰の権限で執事とかメイドとか」
「部長が、俺たち3年は学祭が最後の青春だから楽しませてくれって言ってました」
「いや訳わかんない!!」
「夏目ー、生徒のお願いだよ?やってあげなって」
竹井がニヤニヤしながら話に参加してきた。
最低だ!無責任な奴め…
「竹井がやんなよ、メイド!」
「俺テニス部じゃないし。しかも俺もう決まってるもん」
「なにすんの?」
「ゾンビ。お化け屋敷するクラスの子に依頼されて、ゾンビとして参加すんの。きっと楽しいって、メイドも」
「さすが竹井先生、いいこと言う」
テニス部の子に褒められて、ふふん!って笑ってるけど全然いいこと言ってない!
……だけど抵抗虚しく結局押し切られて、衣装の入った袋を渡されてしまった。
とにかく桂に話しに行かなきゃって、急いで部室に向かった。
「桂!」
ちょうど着替えてるところだった…!
「ご、ごめんねっ、」
「こっちこそごめんね」
上半身何も着てないところを思い切り見てしまった。前にジムに行ったとき、ソノちゃんが下心を抱いちゃう、って言ってたのを思い出してちょっと笑ってしまった。
桂は大きめの黒いTシャツを着て、こちらを見た。
「あ、もしかして文化祭の話?」
「そう!!!文化祭!!なんなの!?なんでわたしと桂もやんなきゃなのっ」
「言ったんだけどね…来週いっぱいはテニス部休みだから、ジムの方で仕事入れようかなと思ってたとこだし。とりあえず3日目だけ来るよってことにしたけど」
「待って、じゃあせめてわたしもそうしてもらわないと困る。聞いた?わたし、こんなの渡されたっ」
袋から服を取り出した。
「……これはちょっと…」
桂は口元を抑えて変な顔をした。
つかんだ衣装を見たら、
……ありえない、ミニスカートだ。ふりふりしてるやつ。袋を見てみたらご丁寧にレース付きのハイソックスとヘッドドレスまで出てきた。
「やだよ俺…環にこんな格好させたくないんだけど…!こんなふりふりした露出高い……俺が渡されたのはスーツみたいなやつだったから、てっきり同じかと思ってた…」
「桂は執事の服って言ってたよ」
「執事?えーっと、ロッカーに入れといたんだよな、こんなん持ち帰ったってあれだし…あ、これこれ」
「………わあ」
燕尾服……!
「こ、これは…持って帰ってソノちゃんに見せた方がいいよ」
「えー、こんなん着てるとこ見ても面白くもなんともないじゃん」
「絶対最高だよ。え、着てみた?」
「こんなん着ないよ1人で」
「えーーー着てみようよ」
「ええ…」
「ソノちゃんも呼ぶから!」
「むしろ呼ばなくていいよ!」
「い、一回着よう、ね?わたしも着てみるから」
「いやいやいやいや待って!環、ほんと俺お父さん目線になっちゃうんだけど、やだよほんとこれ、脚丸見えになるよ?胸元だってなんか、変じゃんかこれ」
「着てみて本当に腹立ったらやめとく」
「そうだな、俺もそうする。よし、ちょっと俺あっちで着替えるわ」
「わたしここで着替えていい?」
「環が気にならないならいいよ」
桂はパーテーションの向こうに行った。
改めてメイド服を出してみる。…やけに凝ってるんだよね…安物じゃないと思う。なんでこんなの用意できるんだろう?そっと着てみた。
スカートはふんわり広がっていて、ウエストもきちんときれいなラインになる。靴下はニーハイ。ヘッドドレスもせっかくだからつけた。
こういうのは別に趣味じゃないけど、でも、思い切り女っぽい感じがして、だから、なんというか、いっそここまで振り切れた服を着られるっていうのは、ある意味嬉しいような気も少ししてしまった…
学校では絶対しないけど、ちゃんと胸元も整えて着た方がかわいいだろうな…
「環、着られた?」
「うん、着たよ」
桂はそーっと出てきた。
「え、すごいかっこいい」
思ったことがストレートに口から出てしまった。
こういう「執事!」って感じの服って割と細身のイメージだったけど、桂のがっしりした体型にもすごく合ってて…というか、多分桂の佇まいに似合うんだと思う。とにかく合ってる。すっごい守ってくれそう。
「ちょっと……え…た、環、だめだ…」
「……だよね…やっぱり見苦しいよねこれ…」
「いや、…い、いやらしく見える」
「ええー?」
「刺激的すぎる」
「そうかなあ…?そうじゃなくてさ、やっぱりほら、男だからね見た目。だからなんかさ、んー……実のところ少しテンションは上がってしまったけど、こんなのは人に見せられないよ」
「環、分かってない」
桂はわたしの後ろに回って、両肩に手をかけた。それから姿見の前に体を押した。
桂と私が並んで映る。
「かわいいんだよすごく。環はかわいい!それがこんなメイド服なんか着て…分かる?俺の気持ち…」
「おれのきもち…?」
「多分これが、年頃の娘を持つ父の気持ちなんだわ…どこにもやりたくないんだよ…こんな格好で出歩いたら、どこの馬の骨だか知らない奴に言い寄られる……!」
「えー…」
「先生の時とのギャップも凄すぎるんだよな。真面目で穏やかで、先生!って感じの雰囲気じゃんいつもは」
「まあ、地味な格好してるよね学校では…」
「ちょっと、そのさん呼ぼう。意見聞かなきゃダメだ」
桂はスマホを取り出して、どうやら本当にソノちゃんに連絡し始めた…
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