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swear;46;都
明日から学祭だ。
最後の学祭は、クラスでやるワッフル屋さんの当番。あとは美術部に絵を3点出した。行ってないくせになー、って自分で思ったけど、誘ってもらったから。
絵は、どれも2学期に入ってから描いた。
雨の絵。手の絵。唇の絵。
全部あの夏休みの時のことを思って描いた。
今もずっと大好きなことには変わりない。だけど記憶は風化していく。あの日感じた温度、におい、感情も、その時のまま残ってはくれない。それが分かって苦しかった。
夏目先生とは授業しか接点はない。
遠くからただ見つめることしかできない。
近づきたいけどやっぱり近づくのは怖い。嫉妬して、感情がぐちゃぐちゃになる自分しか想像できないし
前夜祭を途中で抜けて、保健室に向かった。
ソノは珍しく、イスにゆったり座ってスマホを見てる。
「あれ?前夜祭じゃないの?」
「うん」
「いいんだ」
「半分くらい見たからさ」
「あ!そうだ、」
「ん?」
ソノは持っていたスマホをデスクに置いた。
「環のこと、知ってる?」
「?」
「テニス部でメイドカフェやるじゃん」
「あー」
そういえばパンフレットで見た。
「環もメイドの格好するんだってさ」
「え、なんで?」
「お願いされたんだって。仕方ないから最終日だけってことだけど」
夏目先生の姿を思い出した。
風化していく記憶の、掠れたような、でも美しいかたちの唇と、柔らかく弧を描く目は明確
「…ばかじゃないの。最終日って一番人来るじゃん」
「それほんとテニス部の奴に言ってきてほしい」
「メイドとか……ほんとばかじゃんね」
先生のことをネタみたいに扱って欲しくない。
女装させて、笑って、
きっと先生は声をかけられたり写真を撮られたりしても、いつもみたいに笑顔で応えるんだと思う。何の問題もないみたいに。
でも俺は嫌だと思った。
本当に先生は女装したいの?
やりたい奴がやるんじゃだめなの?
無意識に歯を食いしばってた。
どうしてこんないらいらするんだろう?
先生が女装してって頼まれて、分かった、いいよ、って答えて、……それならそれでいいじゃん。俺がどうこう思う問題じゃない。なのに
「都、ほんとに好きなんだな」
「…なんでそう思うの」
「明らかにいらいらしてるから」
「……夏目先生にそんなことさせて笑い者にすんなとか、テニス部の奴は夏目先生にそんなお願いするくらい近い存在なんだなとか、色々思ってる。でも確実なのは、俺には完全に関係のない話だってことだね」
ソノは大きく目を見開いた。
「怒らせちゃった?」
「いや、そういうんじゃなくて……好きなのに俺は側にはいられないっていうか…ジレンマみたいな……」
「狼男のまま?」
「そうじゃなきゃ、やっぱりだめなんだろうなって今思った。関係ない、って思ってないと、つらい」
「関係ない、か」
「……本当はぶちまけたい。好きだって、理性なんかなくなるくらい、全部吐き出したい」
息を吐き切った。
「好きになんてなりたくなかった」
ソノもため息を吐いた。
「苦しいね」
「論表全部さぼって、夏目先生のこと見ないようにしたい」
「……まあ無理な話だな」
「ソノは行くの?テニス部」
「俺行けないんだよ。ここいなきゃだし。とりあえず桂も最終日に出るから、桂に警備をお願いしてる」
「警備…?」
「俺、環のことはとにかく大切に思ってるわけ。あんなメイド服着てうろうろされたら堪ったもんじゃない……」
「ソノってそんな感じだっけ…?」
「環に対してはそんな感じ。日曜が気が気じゃない。まあ、桂がいるけど…それはそれでまあ…気が気じゃない……」
なんか、ソノから尋常じゃない気迫を感じる…
「まあ、自分がネガティブな気分になりそうなところにわざわざ行くっていうのは精神衛生上よくないね。都、いらいらしそうなときはここ来なね」
「そうする」
ソノはまたいつもの雰囲気に戻って、うーんって伸びをした。
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