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swear;48;都
登校してすぐに保健室に行った。
「ソノ、俺夏目先生のこと見てくる」
「どうしたの、なんか気変わった?」
「昨日、先生と話したんだ、結構色々。俺には本当の先生を知ることはできない。それに、先生は俺のことなんか全然好きじゃない」
一生に一回でいいから、誰かと恋をしてみたかった
夜中、ずっと考えてた。
俺にそんなこと言うのは、俺のことをそんなふうには見てないってことだって気がついた。
先生は恋をしたい。
でもそれは俺じゃない。
普通に振られてるじゃん、
「環が、都のこと好きじゃないって言ったの?」
「まあ、そんな感じかな。いくら俺が先生を見つめて大好きだって思ったところで、絶対叶わない」
「………ふーん」
「だからリハビリに」
「リハビリ?」
「うん。先生のこと見ても、もう何も思わないでいられるように。フラットに、気にせず。好きと思っても押し込めるんだよ、感情」
「不健康だなー!」
「とりあえず行ってくるね。で、また報告しに来るから。あと桂先生の写真撮らせてもらおー」
「は?なんで?」
「執事の格好するんでしょ?絶対かっこいいじゃん。っていうか桂先生めちゃくちゃかっこいいよね。テニス教えてるの、見惚れちゃった。今度まじでデッサンさせて下さいってお願いしよっかな……ん?ソノ…?」
ソノの首、真っ赤になってる…
「都……お前は誰にでも惚れるのか?」
「え?」
「桂はやめとけ…」
「ええ…いや、別にそういうあれじゃないけど」
「本当だろうな」
「本当だって…」
「…写真撮ったら見せろ」
「うん、いいよ。あ、連絡先交換しよ」
「先生だけど俺」
「いいじゃん」
「……内緒ね」
いとこだからかな、今の、ないしょって言うのがなんか、似てた。
ソノと連絡先を交換してからテニス部に向かった。ただでさえ人がすごいのに、テニス部の出店してる教室に近づくにつれて更に混んできた気がする。きゃーきゃー騒ぐ声とか、ざわざわする声が聞こえる。
人混みを掻き分けて、教室を覗き込んだ。
メイドの格好した部員たちの中に、夏目先生もいた。人だかりになってるからチラッとしか見えない。でも、明らかに異質だった。
男子が女装して面白いだろ!っていうネタ的な感じじゃなくて、女の子が混ざってるのか?と思うような、そんな感じだった。
桂先生にもだいぶ人だかりができていた。
なんか、写真撮るための列みたいなのになってた。から、それを遠巻きに撮って、すぐソノに送信した。
夏目先生が移動して、全身が見えた。
………なんか、頭真っ白になった。
たとえば、すごい胸が見えてる女の人がいたときに、胸元は絶対見ないでおかなきゃ、と思うけど、…そういう感じだった。
ぼんやりと先生を目で追った。
動くたびにスカートがふわふわ揺れる。
見ないようにしようと思うのに、真っ白いふとももが目に入る。
俺、なんで来ちゃったんだろう?
もうやめよう、帰ろう、
そう思って視線を外そう、と思った瞬間、スカートがふわっと、不自然に捲れた。誰かの意図的な手のせいだ。妙な歓声。気持ち悪い、
桂先生が険しい顔で「環!」と呼ぶ。夏目先生は笑って「大丈夫だよ」って言う。
教室に入って、夏目先生の腕を掴んだ。
感情を押し込めることなんかできなかった。
へんなざわめきがBGMみたいだ。
掴んだ腕を引っ張って、教室を出た。
人混みに抵抗するように、先生の肩を抱きながら走った。どこに行けばいいか分からないまま人気のない場所を探して、昨日行った屋上に続く階段を登った。
「開いてない、と、思う、」
先生ははあはあ息を切らしていた。
俺も息がかなり荒い。
「……怒られちゃうよ、戻んなきゃ」
「スカート捲られてました」
「…だね」
「ありえない」
「でも、男だし」
「関係あります?」
「…渡辺君には、関係ないよ」
こんな感情は初めてだった。悲しいとか怒りとか、そういうのとはまた違った、名前も知らない感情だった。
「そうですね、俺には何も関係ない」
「ごめんね、変な言い方…ちがう、嫌な意味じゃなくて」
「取り繕わなくていいです」
先生は泣きそうな、困ったような顔だった。
それから階段に座った。
背中が心許なく見えた。
俺はカーディガンを脱いで、先生の膝に掛けた。それから隣に座った。
「あ…ありがとう」
「あの日会わなかったらよかったな」
「…夏休み?」
頷いた。
「俺ばかだからあんなことしちゃった。最低だ、時間戻せたらいいのに」
先生は何も言わなかった。
「今だってそう。なんでこんなことしちゃったんだろう?先生、課題の提出は絶対するから、論表たまにサボっても許してください」
きっともう、何も言ってくれない。
「……先生、送ります。テニス部行って謝らなきゃ」
「待って」
先生の手が俺のシャツの袖を掴んだ。
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