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swear;49;環
シャツの真っ白い袖をつかんだ。
「嬉しかった、あの日」
膝に乗った渡辺君のカーディガンを、少し指先で触って、それから掴んでいた手を離した。
「だめだって分かってるのにどうしても、意識してしまうようになった。渡辺君を見つけたら目で追っちゃうし…授業は平常心でやってるつもりだけど、どうかな」
見上げた。
今や顔を見ただけで、息ができなくなりそうなくらいだった。感情をぶつけられるたびに、応えたいと思った。それを我慢し続けて、興味のない素振りとか、少し突っぱねてみたつもりだけど、離れていってしまうと思ったら、それはそれであまりにも堪え難い、と、思ってしまった。
「また誰かと、ああしてできたらどんなにいいだろうって思ってた。でも、誰かじゃなくて、また、いつか」
自分の手を見た。
震えてるかもしれない。
「渡辺君と過ごせたらどんなにいいだろうって、思うようになった。そんなのだめなのに、」
「なんでだめなの?」
「だって、」
「先生と生徒だから?じゃあ待ったらいい。卒業したら関係ない」
「そうじゃなくて、」
「待つよ、先生。俺待つからいくらでも」
「ちがう、」
「大丈夫だよ!こんな、今みたいにごちゃごちゃ騒がない。静かにして待ってるから」
「ちがうの!」
大きな声を出してしまった。
渡辺君は目を見開いた。
「……もちろん、生徒と先生なのもいけない。だけどね、」
息を吐いて、小さく吸った。
「僕は見た目が男なだけで、男じゃない」
顔を上げて、渡辺君の顔を見た。
妙に冷静な気分で、その整った顔は本当に王子様みたいだなあって、気の抜けたことを思った。
「女だ、って自認、してる」
「それのどこが付き合えない理由なんですか?」
「だって…渡辺君はわたしのことそんな人間だって知らないし、」
「夏目先生が好きなんです。男とか女とか、申し訳ないけどどうでもいいんですよ俺は」
「どうでもいい…?」
「いいです。まだまだ先生のこと全然知らないと思うけど、少なくとも授業してる時の先生は大好きだし、こんなこと言うのもなんですけど、見た目は完全に好きです」
「…あ、ありがとう…?」
「すっごい好きです。いつもの雰囲気も好きだし、前に外で会った時の感じも好きだし、今も好き。訳わかんないけど」
「わけわかんないよね」
「うん。メイドって…しかもこんなガチなやつ。似合っちゃってるし」
「似合ってる?」
「似合ってる」
「…へへ、実はだいぶ満更でもないんだよね」
「でも、スカート捲られてたのはマジでしっかり抗議した方がいいですからね」
「そうだね…あれは結構びっくりした…不快感がすごかった」
「出てるから、脚。ニーハイはいてんのが逆によくない」
「んん…」
「よくないっていうのは、そういう目で見てしまうからってことです。先生、こっち見て」
両手を握り取られた。
目線がしっかり重なる。
「卒業したら、迎えに行きます。それまで待っててくれますか?」
ほんとに王子様みたいだ、
「……待ってます」
指先に力がこもった。
「嬉しい……でも今は、我慢」
長く目が合って、あの日キスしたときよりも心臓がばくばくした。
「先生、キャンセルは受け付けませんから」
「それはこっちが言いたい」
「なんでですか!」
「いろんな子に告白されてるの知ってるし」
昨日は何回かそういう光景を目撃してしまって、いよいよ心が折れて屋上に上がった。なのにそこにひとりで現れるなんて、やっぱり王子様だなあと思うけど
「別に告白されたって、先生のことで頭いっぱいだから関係ないと思うけど…」
「えー…」
「でも先生が嫌なら対策取らないと。考えます」
大きな手が、わたしの頬に触れた。
「1分だけ、ちょっとフライングしたい。だめ?」
渡辺君の切れ長の目を見た。
唇が近づく。
「だめ」
自制心をものすごく働かせてる。
本当はすーーーっごいこのまま流されちゃいたい。
「だめ?」
「だめ」
至近距離で見る渡辺君は、いつもみたいに大人びていながら、やっぱり少し子供にも見えた。
そうだ、普通にすごい年齢差じゃん…分かってんのかな…
「先生、この格好でまたテニス部戻んの?」
「んー…戻るしかないかなあ…めちゃくちゃ怒られそう…やだな……」
渡辺君は、少し険しい顔をした。
「……先生、本当に待っててくれるよね」
小指を差し出される。
「約束して」
小指を絡ませた。
「約束する」
その手が引き寄せられて、おでことおでこが触れ合った。
「先生、大好きだよ」
……胸がぎゅーってなった。
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