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swear;50;環
テニス部の出店している教室に戻ろうとしたら、桂の姿が見えた。こちらに走ってくる。
「環!!」
「桂、ごめんね抜けて」
誰もいないからかハグされた。
「不快だったね、あんなことされて…あの後、一応すぐにアナウンスしたんだけど、」
「アナウンス?」
「男性女性関わらず、そういうことをされたら不快だから、生徒達にも教諭にも配慮して欲しい。皆さんに楽しんでもらう為に部員が準備したことだから、気持ちよく楽しんでもらいたいって」
桂はため息をついた。
「先に言っておくべきだった。想像力が足りなかったな」
「桂先生、そんなことないと思う。すごい冷静だし、いいアナウンス。俺はそんなの思いつかないもん。だから夏目先生のこと連れてっちゃったわけだし。あともうくっつくの終わりにして下さい」
「あー、ごめんごめん!ごめんね環、つい…」
「大丈夫だよ!ありがとう、桂」
渡辺君がむちゃくちゃ大きい咳払いをした。大丈夫かな?
「あと少しだし、戻ろうかな。桂も戻るでしょ?」
「そうだね。都も来る?あ!俺さっき都の描いた絵見てきたよ」
「え!なんで?」
「ふたりを探すのにうろうろしてて、美術部にも行ったんだ。せっかくだからサラッと展示も見た。駆け足でだけどね」
桂は渡辺君に笑いかける。
「すごい素敵な絵だった。雨が降ってる風景画、ああいうの部屋に飾りたいなーって思った。すごい好きだわ、あの絵。雨だけど、なんかすごい明るい雰囲気で」
渡辺君は無言で桂に近づいてハグした。
「おおお、」
「展示終わったら貰って下さい」
「え!いいの!?本当に?」
「うん。それとデッサンさせて下さい」
「え」
「上半身だけでいいから」
「ええー…描いてもらうほどの体でもないんだよほんと…」
いやそんなことないと思う……
「お願い桂先生!決まりね」
渡辺君は無邪気に笑って、桂の手を繋いだ。
それから反対の手で私の手を繋ぐ。
「じゃあ、行きましょっか」
なんでか分からないけどすごく、満たされた気分だった。
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