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swear;51;環
ソノちゃんはさっきからずっと不機嫌そうにしている。
桂が「こんなにたくさんの人と写真撮ったの初めてだった」みたいなことを言っちゃって、それから顰めっ面になった。
だけど桂の執事姿は本当にかっこよかったから、そうなっても全然おかしくない。
「そのさん〜」
一方、桂は一仕事終えた解放感からかソノちゃんにべったりくっついている。執事の衣装を返却して、すっかりラフな格好。
「近い。どいて」
「なんでよそのさん、もうちょっとこのままがいい。エネルギーチャージしてるんだから」
「保健室でやることじゃないだろっ」
「ちょっとだけだから!」
「何がちょっとだ!」
いちゃいちゃしすぎだ!いいなー、うらやましい。でも、わたしもきっと、それが叶う日は近いはず……
今は後夜祭をしていて、いろんな音が聞こえてくる。
「そういえば後夜祭ってなにすんの?」
ソノちゃんは桂をぐいっと押し退けながら聞いた。
「フォークダンスして、それからなんかほら、ありがとー!とか、好きだよー!とかおっきい声で言うやつ」
「あー」
「ああいうのやってるみたいだよ」
「先生は行かなくていいの?」
「んー、行ってもいいし、別に行事担当じゃなかったら行かなくても平気」
「そうなんだ」
「みんなで観に行ってみる?」
「行ってみたい!」
桂は目を輝かせた。
「そのさんも一緒に行こう!」
「んー」
「行こうよソノちゃん!みんな集まってるから、ケガ人が出てもすぐわかるよ!…なんて、不謹慎かなあ…」
「……ちょっとくらいならいっか」
人集りから少し距離を置いて3人並んだ。
先輩ありがとうー!みたいな、熱い叫びだとか、先生に向けて面白い質問を叫んだりだとか、聞いてると楽しい。
ふたりも笑いながら舞台に見入っている。
司会している子が、客席の方に向かって、叫びたいことがある子はいないかを聞き始めた。1人の女子生徒が壇上に上がる。
「今日、テニス部のメイドカフェに行きました!」
桂と顔を見合わせて、おお、って表情になる。
「執事の格好してた顧問の先生いますかーーー!!」
ざわざわなってる。
司会の子が「いませんかー?」って言うし、部員の子達も「関野先生ーー」って叫んでる。
桂はびっくりした表情のまま、ソノちゃんの後ろに隠れようとしたけど、隠れられるわけもなく、部員の子に見つかって「ここでーーす!!」って言われて、諦めたみたいに両手をぶんぶん振って応えた。
「すっっっごいかっこよかったです!!!ファンになりました!!大好きでーーーーす!!!」
…すごく盛り上がっている……!
部員の子たちが来て、桂は引っ張られていく。
「……行っちゃったね…」
「だな」
ソノちゃんは舞台の上を見つめる。
久しぶりにソノちゃんの横顔を長く見つめた。きれいだなってしみじみ思った。
桂は舞台に上げられた。
口元を押さえながらとっても喜んでいる女子生徒に近づいて、笑いかける。
司会の子がいろいろと気の利いたこと……それは彼女にとって……を言って、桂はハグされた。体が離れたときに、桂は彼女の頭を優しくぽんぽん撫でた。なんていうか、黄色い悲鳴?が上がった。
テニス部は2年の中で数名がプレイングマネージャーをやることにしているけど、なんかこれを機にマネージャー志望って子が来そうな気がする。
「桂って、誰にでも優しいよね」
ソノちゃんは舞台に目をやったまま言った。
「そうだけど、ソノちゃんには今の頭ぽんぽんの100倍くらい優しいじゃん」
「そう?」
「そうでしょ!!あまったるーーーいよ!チョコアイスにマシュマロとプリンとキャラメルソースかけてるくらい甘い」
ものすごい顰めっ面になった。
「吐きそうだなそれ」
「でもそれくらい、ソノちゃんにはめろめろだもんね」
「……んん…」
ソノちゃんにくっついた。
「特別なの、いいな」
ソノちゃんはこっちを見た。目が合う。
「今はまだ俺の特別でいてよ、環」
「えー?ソノちゃんの特別は桂じゃん」
「環は俺にとってずっと特別。桂もだけど、でも環のことも俺はずっと大切に思ってる」
「……え、こ、告白されてる」
「はは、叫んでるの聞いて触発されたのかも」
目を細めて笑う顔を見たら、なんか少し泣きそうになった。
「ソノちゃん、大好き」
ソノちゃんはわたしの背中をぽんぽん撫でた。
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