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anxiety Xmas;53;苑
火曜日、仕事終わりにジムに向かう。
桂と並んで歩く。
「そのさん、今日はうちに来ない?」
「おー、珍しいね」
「たまにはね!いつも押し掛けてばっかりだし。ごはんも用意してきたんだ」
にこっ、て微笑まれたら未だに少しドキドキする。慣れてくるもんかな、と勝手に思ってたけどそんなことはなかった。
桂のこと、すごく好きだと思う。
好きで堪らない。そういう思いは強くなっている気がする。
と同時に、とにかく甘やかされていて…それを受け入れることは逆にへたくそになっていってる気がする…
天邪鬼だな、と思う。よくないって分かってるのに。いつ嫌われてもおかしくないよな、と思う時もある。
「今日、先にちょっとだけ仕事してきてもいい?終わったらすぐ行くから」
「いいよ。こっち来るの大変だったら、無理して来なくてもいいし」
「行きたいんだよ俺が〜!すぐだから」
不意に手を取られた。
「後でね」
それからまた微笑まれる。
思わず目を逸らしてしまった。
桂は職員用の入り口がある方へ向かう。
背中を見送ってから、自動ドアを抜けて受付に向かった。
「大沢さん!こんばんは」
「こんばんは」
受付の女の子は眩しいくらいの笑顔で挨拶してくれる。
「あれ、今日は関野と一緒じゃないんですね」
「少し仕事するって、違う入り口に入っていきましたよ」
「そうなんだ。ずっとそうだけど、人気のトレーナーだからスケジュールの調整が大変みたいです。ほら、お客様によったら食事のことなんかもフォローしないとだし、そういうのしていくのかな」
「はー、大変だ」
「ね!ほんと尊敬。はい、ロッカーキーです」
彼女はカードを差し出した。
ふと爪に目が行った。温かみのあるオレンジ色で、つやつやしている。
「かわいいですね」
「え?」
「爪」
「わー、ありがとうございます!えー、なんか褒められるの嬉しい」
「ご自分でされてるんですか?」
「サロンでやってもらってます。気分転換になるし」
「そうなんだ」
環、こういうの似合いそうだな、と思った。
よく考えたら、教師って職業柄もあるだろうけど、爪をかわいくするって発想が抜け落ちてた。切るついでに磨いてるのは見たことあるけど、休みの日なんかは塗ってもいいよなあ。
「大沢さん、モテそう」
「なんでですか」
「ネイル褒めてくれるとか、女子は嬉しいですよ〜!ほら、ご飯作る時に不衛生じゃないかとか言う人もいるじゃないですか」
「あー…でも、ご飯は女性が作るものだ、って決め付けて言ってんだとしたら、それも変な話ですよねえ」
「あーーー大沢さん完全にモテる人だ」
「いやいやモテないから」
「またまた〜!ふふ、じゃあ今日も頑張ってきて下さい!」
「ありがとう」
彼女は笑顔で手を振ってくれた。
ネイルかー。
環はどんな色も難なく似合うけど、今だったら茶色とピンクとか、柔らかい雰囲気の色がいいな。ちょっとやり方を調べてみよう。ちょうどもうすぐ冬休みだし、抵抗なくできるかも。
着替えを済ませて、マシンの並ぶフロアに向かった。
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