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anxiety Xmas;58;苑
「ソノー」
都は相変わらずふらっと保健室に現れる。
「おー」
「ねえねえ、お願いなんだけど」
「なに」
すぐ隣にくる。
伸びた髪をかき上げて……あ、文化祭の後に、都は真っ黒に染め直した。初めは違和感しかなかったけど、すぐ見慣れた。
「夏目先生の指輪のサイズ教えて」
「さすがに知らないよ」
「測ってきて!」
「どういう理由つけて指輪のサイズ測るんだよ!」
「寝てる時にサッと糸巻きつけてくれたらいいよ」
「……できなくもないか…え、指輪あげんの?重くない?付き合ってもないのに」
「言ったじゃん確定してるんだって!!」
都は文化祭が終わってから、執事姿の桂の写真と共にえらく長文のメッセージを送ってきた。
要約すると「環に卒業したら付き合って欲しいと伝えた。環は待ってるって言ってくれた。」とのことだった。
正直、環は都のことを意識しすぎてるというか……環にとっては初めて異性から好意をぶつけられたわけで、そりゃ意識しないわけにはいかないだろうけど……かなり好きになっていってるなって、分かってはいた。
環からは、告白されたことは聞かされなかった。
後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。
今はまだ恋人じゃないんだ、と都が言ってるところを見ると、環が念を押してるんじゃないか、って気がする。「渡辺君が卒業するまでは、恋人じゃないからね」とか言って。
「今まだ付き合ってないんだから、確定かどうかも分かんないだろ?環だって他に好きな人できるかもしれないし、都も相変わらず告白されまくってるし」
「待ってよ、なに、夏目先生誰かに言い寄られたりしてんの?」
「知らないよ」
「……近づいてくる奴殴る」
「物騒なこと言うんじゃないよ…」
「近づけないようにするために、指輪あげるんだ!」
「……はあ」
「見て」
都はなにやらごそごそして、それから左手をこちらに差し出した。
薬指には細い線が絡み合ったようなデザインの、銀色の指輪がある。繊細で美しい。
「すごいきれいじゃん」
「作ったんだ、これ」
「え!!すごいな…!さすが美大生…」
「夏目先生の分も作りたい」
「そっか。……じゃあ、頑張って測ってこようか」
「ありがとうソノ!ほんと大好き」
都が左手を上げたから、その手にハイタッチして手を握った。友達か俺らは…
まあ、まだ先の話だし不確定だけど、もし本当に環と都がそういう関係になるんだとしたら、都には指輪を着けておいてもらいたい。告白避けをしておいてもらわないと環が可哀想だし!……自分が過保護すぎるのは分かってる……
………で、そんな矢先に環と桂が、なぜか「かっこいいし遊ぶと楽しそう」だの「雑なスキンシップをしてくる」だのという、だれかの話をしながら保健室に入ってきた。
都はあからさまにイライラしてる。
環はなんか変に固まって、強張っている。
桂は状況がいまいち掴みきれていないからか、気まずそうな顔で俺を見てくる。
「俺、帰ります」
都が言った。イライラしたまま帰って大丈夫か?と思ったけど、留めるわけにもいかない。
「気をつけて帰れよ」
「はーい。ソノ、あれよろしく」
「はいはい」
都は出て行った。
「……怒ってた…?都怒ってたね、どうしようそのさん…俺変なこと言った?」
「桂のせいじゃないよ。あれ?今日ジム行く?」
「いや、3人で帰れたらいいなと思って」
「あー、もうこんな時間か。帰ろ帰ろ」
桂は明日の朝が早いとのことで、途中で別れた。環はずっと難しい顔をしているから、連れて帰った。
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