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anxiety Xmas;59;苑
家に着いたら、環はすぐに顔を洗って、ルームウェアに着替えてきた。それからソファーに突っ伏した。
「なんだよ、どうしたのさっきから」
「……ソノちゃんに言わないでおこうと思ってたけど限界」
「どうしたの」
「渡辺君、好きだって言ってくれたよ、卒業するまで待っててって」
「うんうん」
「待ってられるわけなかったよね、当たり前じゃんあんな子なんだから」
「あんな子って何」
「告白されるってことだよいろんな人から。わたしが待ったところで、待っててくれるわけないじゃん!なんで、……なんで、真に受けちゃったんだろうね?ばかじゃん、」
絶対泣いてんじゃん……
「わたしだけばかみたい」
「そんなことないだろ」
「学祭の時に言われて、それ以降授業でしか会ってない」
「うん」
「接点なんてほとんどない。個人的に話すわけでもない。そんな状況なのに卒業して「はい付き合いましょう」とか、そんなんなるわけないよね」
「それは分かんないじゃん」
「ソノちゃん、見た?」
「なにを?」
「指輪」
あーーーーー、
「してたんだよ。左手、薬指!…待っててって言ってたけど、待ってるなんて言ってなかったもんね」
「なんでそんな言い回しにこだわるんだよ、とんち話じゃないんだから……ちゃんと環と恋人になれるようにって、都は都なりに思って、」
「わざわざ薬指に指輪なんかつけない」
「ファッションかもよ?」
「一緒に買った誰かがいるからつけるんだよ」
どうして指輪を着けていたのか教えてやりたいけど、話すわけにもいかないよな…
「もういい。最初からこんな話はなかったんだ」
「いやいやいや」
環は顔を上げた。可哀想なくらい泣いてる…
「そんな泣くか〜!」
抱きしめたらほんとに声上げて泣き始めるもんだから、いよいよなんで指輪を着けてたのかを言おうか悩む…
それにしても、こんなに泣くほど好きなのか都のこと……都、知ったら気ぃ狂うんじゃないか…
結構がっつり泣いたら、やっと少し落ち着いてきた。ティッシュで涙と真っ赤になった鼻を拭いている。目元も真っ赤っかだ。明日絶対浮腫むなこれは。
「よくよく考えたらさ、ひどいよね」
「なにが?」
「わたし26じゃん、渡辺君18歳。ないよね」
ないねー、と言いたかったけど我慢した。
「まあ……なんだ…今の子は大人っぽいじゃん」
「大人っぽいだけで、大人じゃないよ」
「…正論だな」
「はあ…あぶなかった…冷静になれてよかった」
「冷静になったの、泣いたら」
「なったよ。ちょっと落ち着いたらまた、誰かを好きになれたらいいな」
へへ、って環は笑った。
「ソノちゃん、ごはん食べよう。いっぱい食べて元気だすぞー!」
子供か!
環は本当にもりもり食べた。
それから帰ろうとするもんだから、このまま泊まれって引き留めて、ぎゃーぎゃー言われながらも抱き上げて、ベッドに放り投げた。
順番にシャワーしたら、ソファーベッドで寝ようとするから(泊まりに来る時の定位置だからだけど)、もう一回抱えて寝室に連れて行った。
さっきより思い切りよく投げたら軽くバウンドして、なんか分かんないけどふたりでげらげら笑った。
環が寝入るまで、どうでもいい話をたくさんした。ジムの受付嬢と話したネイルのこととか、モテそうって言われたこととか。
「冬休みになったら、塗ってあげる」
「彼女じゃないからなあ」
「環に塗るって思って話してたんだよ、向こうが彼女って思い込んだだけで」
「じゃあ、お言葉に甘えて塗ってもらう」
「研究しとくから、かわいくできるように」
結構な遅い時間になってたけど、環が寝入ったあと都にメッセージを送った。
『遅くにごめん。環、色々勘違いしてる。フォローしきれなかった。また明日話そう。おやすみ』
それから、環の左手の薬指のサイズを測った。
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