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mess up;82;苑
ぎりぎりぎりぎり……って歯軋りの音がしそうなくらい、都は食いしばっていた。奥歯割れるんじゃないのってくらい、顎の筋肉が動いてるのが見える。
さすがに可哀想だ。
自分が都の立場だったらもっと取り乱してると思う。まだ学生だし。
デートってどういうつもり?さっき手繋いでたの見たけど?飲みに行くってなに?
そうやって捲し立ててしまうかもしれない。
都が我慢するのをやめたときは間を取り持とうと思ってた。だけどなにも言わない……
環も自制しているんだとは思うし、手を繋いで云々っていうのも、別に特別な意識があってどうこうってわけじゃないんだろうなと思う。
あと3ヶ月、こんな感じで大丈夫なのか?
「……先生と生徒だろとは言ったけどさ…」
「帰るね!今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします」
「都!」
「……」
やっぱり食いしばってる。
「我慢しろって言ってるけど、そういうことは我慢しない方がいいって」
「ソノは信じてるんでしょ?桂先生のこと」
「そうだよ」
「俺もそうなれるように努力しなきゃ」
「まだ知らないだろそこまで、環を。知らないのに信用できる?」
「渡辺君」
環が都に近づいた。
「なにかあった?ソノちゃんには、話したの?」
「…話しました」
「……気になるんだけど、教えては貰えない感じ?かな、」
都のことを気にしながら、チラッとこちらを見てくる。不安気。唇が突き出てる。
「先生がさっき、竹井先生と手繋いでたの見ました。だからソノに話聞いてもらって…」
「え、竹井とわたしがなんで手繋ぐの?」
「さっき体育館で、見ました」
環はやっぱり唇を突き出したまま眉を顰めた。
「あ!カイロ借りたんだ」
「カイロ?」
「寒がってたら貸してくれたんだ。式終わって返したときに、手が温まったとかそういうのでちょっと触ったから、それかなあ」
都は唇を噛んだ。
「先生は……………すみません、なんでもないです」
「環も嫌だと思うよそういうの。だろ?」
「え!」
「いろんな子から告白されてるって言ってたじゃん、泣きながら。そんな子が卒業まで待っててくれるわけないって号泣してたでしょ」
「……しました…」
「竹井先生?との関係にやましいものなんて一切ないだろうけどさ。でも側から見てたら不安になる都の気持ち、俺は痛いほど分かるよ」
「ソノは、桂先生が他の人とどうこうしてても許せるんでしょ?俺もそうなりたい。ソノみたいに大人になりたいよ」
…健気……!
「桂と俺はちゃんと付き合ってるわけだし、一緒に過ごす時間を重ねてるから平気だと思えるけど……環も都も、今から積み重ねていくんだから、嫉妬したり不安になったり、そんなの当たり前だよ」
環はドアの方に行って、鍵を閉めた。
「ソノちゃん今だけゆるして、」
それから都を抱きしめた。
…よく似合うふたりだ。
立場を考えたら『まだ付き合ってないんだから!』って言っちゃうけど…『もういいよ、あと3ヶ月だし!』って気持ちになる。
「不安にさせちゃったね」
「俺が勝手に見て思っただけだから、」
環は都の両手を取った。赤くなってる。
「飲みに行くの、やめる」
「え!それはなんか、すごい申し訳ない…行ってきて下さい。桂先生いるし、別にそこまで心配しないっていうか……めちゃくちゃ気になるけど!でも、そこまで子供じゃない…かな」
「…本当にいいの?」
「桂先生いるしね!竹井先生も、授業受ける分には俺、好きだし!」
「……本当かなあ?」
「英コミュもちゃんとやってるよ!」
「それは知ってるけど…」
「今、こうしてもらったから」
都は笑って、環の体を引き寄せた。
目を閉じてハグをする。
都は背が高いから、環はすっぽり収まってしまう。
……なんか不覚にもキュンとする感じあるんだよな…!
「先生は俺のことをちゃんと好きでいてくれてるんだって、伝わった。俺も先生のことが好き。だから大丈夫。また来年学校始まったらすぐ、会いに行くね」
環は都の首筋に顔を埋めて、唸りながら何度も都の背中をさすった。
都も環を抱きしめる腕に力がこもった。
「かわいい。本当に大好き!」
つられて俺も赤くなっちゃってる気がする…
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