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mess up;84;桂
この飲み会が終わったら、竹井太朗に強く抗議しないといけない。
竹井、お前はどういうつもりなんだ?お前はお前の力で彼女を見つけるべきだろう?なんで巻き込まれてるんだ!俺も環も、彼女が欲しいなんて言ってないじゃないか、
3人で飲むつもりで行った店には、女の子が3人申し合わせたかのようにいた。ゆきちゃんもいる。ここまできたら竹井とゆきちゃんで出来上がれよ!と思うけど、そういうことにはならないらしい。いや、なれよ。
環はふとした瞬間に目が死んでいるように見えた。積極的な、いわゆるゆるふわ…死語か?…可愛らしい感じの女の子が隣を陣取って、時に肩や背中、どうやらテーブルの下では膝なんかに触れられながら話が繰り広げられている模様。
女の子の隣にいる環は、可愛いとはいえ男性に見える。服装も仕事のスタイルだからだろうけど、不思議な感じがした。
俺の隣にはゆきちゃんがいる。
はっきりと誘われはしないものの、なんていうか、ワンチャンないかなっていう気配を感じる。やや露骨に、女性の武器を突きつけられている感じ。絶対見ないし、靡かないけど。
飲み会が終わる頃には、10時になっていた。
竹井は「良いお年を〜」とか言って、女の子たちと同じ方向に消えて行った。
「……つかれた…」
「俺3人で飲むって思ってた」
「わ…僕もそう思ってた」
まだ外だからか、環は一瞬緩んだ気を引き締めるみたいに、瞼をぎゅっと閉じて頭を少し振った。パッと顔を上げたら、くしゃっと笑い始めた…!
「……へへへ!あー、なんかすごい面白かった〜!」
「え!!疲れたでしょ!?」
「序盤はどうしようと思って困ったけど、こうやって男の人に触ったりするんだなあ…とか思って、なんか面白かった!へへ、ソノちゃんにやってみよ」
「なんでそのさんにすんの!!」
「感想を聞かせてもらうんだー」
環は屈託なく笑う。
「……無理してない?」
「んーー…まあ、腹は立ったよねえ。3人で飲もうって言ってたのに、嘘だったんだもん。前向きに学びとして捉えてみてはいるけど、竹井には今度めちゃくちゃ文句言う」
さすがにそうだよね…
でも、思ったより全然苦痛そうには見えなくて、少し安心した。
「桂は結局、今日泊まらないの?」
「そうだね…もう遅いし、明日は一日中仕事あるしね」
「そっか…次いつ会える?」
「元旦の昼頃には行くよ」
「じゃあ、初詣一緒に行けるかな」
「そうだね!」
「楽しみだね、お正月!」
環はスマホを取り出した。
「あ、ソノちゃんだ…もうロータリーに着いたって」
「迎えに来てるの?」
「うん。桂も一緒に行こ」
グレーのセダンが停まってる。
環は後ろのドアを開けた。
「桂が前だよ」
窓を覗き込むと、そのさんと目が合った。
ドアを開けて乗り込む。
「おかえり」
……なんかめちゃくちゃ嬉しい。
「うわ、桂すごいニヤついてる」
環がわざわざ身を乗り出してこっちを見てくるから、顔が熱くなった。
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