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mess up;85;桂
「とりあえず竹井太朗に一発入れに行くか」
そのさんは左手でハンドル、右手は窓枠に肘を引っ掛けて頬杖をついている。
明らかに苛ついてるけど、そんな横顔も美しいんだよなー…!ほんときれい。ずっと見てられる。大好き。
「でも、おかげであざとい仕草のスキルを得たんだよ!家で披露するから楽しみにしてて」
「そんなもんしなくていい。もう充分かわいいでしょ」
「えー?あ、あと、桂は全然普通だったよ。結構ぐいぐい来られてたのに、表情ひとつ変えなくてすごいなあって思った」
「へー、ぐいぐい来られてたの?」
「うん。すごかった」
「ふーん、そっかー」
………非常に怖くなってきた。
なんにもなかったけど変な罪悪感が若干湧く…
「桂、着いたよ」
「あ、ありがとう」
そのさんと目が合った。
「1日の昼頃、行ってもいい?」
「うん」
「………そのさん〜」
「なんだよ」
「さみしい…はああ……」
笑い声が後ろから聞こえる…
「あっという間だよきっと!ソノちゃんとお雑煮作って待ってるね」
「あ、栗きんとん食べたい。材料買って帰ろう」
「時間めちゃくちゃあるから作り放題だねー!桂、楽しみにしてて!」
ふたりで並んで作ってるところも見たかった…!
「楽しみにしてる!…じゃあ、行くね。送ってくれてありがとう!また来年」
「うん。良いお年を」
「良いお年をー!」
車が行くのを見送った。
明日からジムで朝から晩まで3連勤。それから新幹線でサラッと実家帰って、で、そのさんの家に行く。まだまだ正月気分にはなれない。けど、楽しみが先にあると思うと頑張れる。
家に帰って寝る支度を終えたら0時前だった。
電気を消して布団に潜り込んだ時、枕元が震えた。スマホを手に取ると、そのさんからの着信。
「そのさん、どうしたの?」
『遅くにごめん。今大丈夫?』
「うん、大丈夫」
『実は大晦日から、都もうちに来るんだ』
「おー!そうなんだ」
『いろいろあって、親御さんとも話はついてる。でも環にはなんとなく言えなくて…別にサプライズ!ってつもりもないんだけど…』
「言うきっかけもなかなかなさそうだもんね」
『うん…大晦日までに言うのかどうか分からないんだけど、とにかくそういうことになってて、一応連絡してみた』
「ありがとう。…ごめんね、今日行けなくて…あー、会えるのが先すぎる…」
『そうだね。なんか…声聞いたら余計、さみしい』
「毎日電話しようよ」
『…いや、しない。さみしくなるから』
「えーーー」
『……好き?』
「ん?」
『…ゆきちゃんって子と飲んだら、楽しかったんじゃないのって、思って…ちょっとだけ』
「そのさんが好きだよ。そんなん思わなくていい。そのさんしか好きじゃない」
『んん、』
赤くなって、目が泳ぐそのさんの顔が目に浮かんだ。今すぐにでも抱きしめてベッドに引っ張り込んでしまいたい。本当はそのさんの家にいたい。だけど、結局朝から晩まで仕事だし、ゆっくりは過ごせないし、
『変なこと言って、ごめん』
「変なことじゃないよ!ほんと、今日行けばよかったな、」
『仕事でしょ?』
「そうだね。なんか明日から3日間、ものすごいスケジュール詰まってるみたい…」
『さすが人気のトレーナーだ』
「いやー…なんでだろうねほんと…でもそれ乗り切ったら会えるしね!頑張って働いてきます」
『うん。待ってる』
「…切りたくない……」
『切るよ!明日早いでしょ?ごめん、もうこんな時間』
「あー!そのさん、」
『だめ、寝不足で仕事は良くない。あ、』
ごそごそ音がする。
『環が来た』
「起こしちゃったかな、ごめんね」
『うわっ、…はあ……』
「なに、どうしたの?」
『寝ながらベッド入ってきた』
「寝ながら!?」
『寒かったからかな…抱きつかれて動けない』
「環と替わりたい」
『羨ましいでしょ』
「ふふ」
『じゃあ、切るね』
「…うん」
『おやすみ』
「おやすみ」
電話が切れて、急に静かになる。
さみしい、
ふとんに頭まで潜った。
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