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mess up;90;都

めっっっっちゃ緊張してきた。 3泊4日!リュックに服とか無駄にいっぱい入れてきてしまった…あとは親から持たされたおもたせ?ちょっと高そうなお菓子も持った。 あと一番重要なのは、完成した指輪。 夏目先生、気に入ってくれたらいいな。 先生から貰ったシャーペンは、名前の刻印がきらきらしててめちゃくちゃかっこよかった。一生使おうと思う。今日も持ってきてる。 「おーい」 グレーの車が目の前に停まって、ソノが中から手を振ってる。 「乗って」 「おじゃましますっ」 他に誰も乗ってなかったから、助手席に乗った。 「すごいね荷物が」 「どれくらい持ってっていいか分かんなくていっぱい入れてきちゃった」 「洗濯していいからね、服とか」 「ありがとう。もう夏目先生来てんの?」 「うん、いるよ」 「緊張してきた」 「なんでだよ」 「あ、あと、母さんからこれ」 紙袋をソノに見せた。 「お菓子」 「あらら、気を遣って貰っちゃったね。ありがたく頂戴します」 ソノは頭をぺこっと下げた。 それからハンドルを握って、車が出発した。 「ソノ、運転してるとこかっこいいね」 「ありがとー。そうだ、前ごめんね、すごい変な時間に連絡しちゃって」 「全然大丈夫だよ。なんかあったの?」 「まあね。一緒にいる時間が長いから信じてられるんだとかさ、前に言ってたじゃん」 「桂先生との話?」 「そうそう。どの口が言うかって感じなの、今」 「そうなんだ…え、具体的なこと聞いていいの?」 ソノは具体的なことを話してくれた。 ・竹井の飲み会には女の人が来てた ・そのうちの1人は桂先生のことが好き ・夏目先生とジムに行ったら、その人と桂先生は2人でトレーニング中だった ・その女の人は「桂先生のことを諦めてない」ってはっきり言った 「え、それで嫉妬しないとか逆にないって。えらいよソノ、嫉妬して正解」 「ほんと?」 「自分と夏目先生に置き替えて考えてみたらさ、俺多分別れて下さいって言っちゃうと思う、勢いで」 「え〜?それは怪しくない?だって環のことすごい好きなんでしょ?」 「好きだからだよ。死ぬほど苦しいよそんなの。夏目先生のことを好きだって言ってる人と夏目先生が2人きりでいるとこ見るんでしょ?…いやー、苦しい」 「環がお前のこと好きって言ってても別れられる?」 「んんーーーー………でもさあ、好きって言ってる人に対して、先生自身もにこにこ笑って、楽しそうに話してるってことでしょ?」 「うん」 「耐えられないよ。忘れる努力し始めると思う」 「…まじか……」 「……とはいえ、夏目先生のこと忘れるとか無理だし、少なくとも30年は引きずるよね」 「40歳超えるじゃん」 「うん…一生独り身でいる」 「えー」 車が停まった。 「着いた」 「ありがとう」 「まあ、もし独り身でいることになったら、うちのマンション引っ越してきなね」 「ありがとう〜と思ったけどだめじゃん、ソノと環いとこなのに」 「そっか。えー、じゃあ添い遂げてやってよ環と」 「え、お父さん?」 「ほぼお父さん」 お父さんにしては若くてかっこよすぎる。 エレベーターで一番上の階まで行ったら、そこがソノの家だ。もう知ってるもんね!なんかちょっとこう、優越感ある。 「どうぞ」 「おじゃましまーす」 ソノのあとについて、リビングへ。 「おー、1人でプレイしてんの?」 ソノが話しかけるその先には、ソファーを背もたれにしながらコントローラーを握る夏目先生がいる、………可愛い。口が半開きになってる… 「そう!やばい、あと残り5人だよ!!耐えなきゃ」 「あ、あの建物の上にいる奴、スナイパーあるから抜けるんじゃない?」 「本当だ…一発で頭抜かなきゃだね……」 画面には、きらきらした女の子の後ろ姿が映ってる。長いポニーテール。 このゲーム、俺はやったことないけど友達がやってた。しかも配信してた気がする。 「おお!!!」 「やったーーーー!!!」 先生は、わーー!って両手を上げた。 「ソノちゃん〜」 ソノはソファーの後ろから、先生の手をにぎにぎした。 「甘いの買ってきた?」 「あ、忘れた」 「えー!なんだよ〜…………」 先生と目が合った。 見たことないくらい目がまんまるになって、固まってる。 「環!やられるっ」 「はっ!!」 すぐにコントローラーを握って画面に顔を向ける。 「あと1人じゃん」 「ん、……え、なんで渡辺君が、」 「環!あの茂みにいる。左」 「うわ、どうしよ…ちょっと……状況が今…え、エイム絶対だめだ、」 「サブマシンガンあるんだから一気に行きな!できるって」 「うう…」 「行け!」 「先生がんばれ!」 画面の中の女の子は、木の茂みに向けてマシンガンを連射した。 「わ……!」 「うおーーー!勝った!!やったじゃん環!」 ソノは環の顔を上から覗き込んで、両手でほっぺを挟んだ。先生の唇がむにゅって突き出る。 「………ゆめ?」 「夢じゃないから。1位じゃん、すご」 「じゃなくて、」 夏目先生はこっちをちらっと見る。 「先生、おはよう」 「ゆ、夢じゃない」 「おじゃまします」 「なんで…?」 「都、ご両親が不在のお正月になるから、泊まりにおいでって誘ったんだ。親御さん公認で3日までいるからね。マットレス出さなきゃ」 「え!え、じゃあ、わたし帰るよ、」 「なんでだよ」 「だって…」 ソノは立ち上がった夏目先生の両肩を掴んでゆさぶった。 「一緒にいよう」 「んん…」 先生はクリスマスの時とはまた違った雰囲気で、ハイウエストのスキニーに淡いピンクのセーターを着てる。セーターは丈が短めで、スタイルの良さが目立つ。やっぱり見惚れちゃうな…っていうかソノとだいぶくっつきすぎじゃない?ずるい。ゲームしてる時の感じとかやばかった。普通に手にぎにぎしてるし!ほっぺむにゅむにゅしてるし!! 「夏目先生!!」 「な、なに…?」 ソノが先生から離れたから、近づいて手を取った。 「一緒にいたい」 「……んん…」 先生の手を見た。……かわいい!! 「爪可愛いね!チョコみたい」 「あ、ありがとう。ソノちゃんが塗ってくれたんだ」 「おいソノ!!」 「なんだよ」 「環と近すぎる!」 「えー、でもその可愛い爪は俺がやったよ?」 「…それはありがとう」 「うん」 「でも嫉妬しちゃう…」 「ごめんって」 「待って、わたしもするよ?」 「なにが?」 「わたしが知らないところで、ふたりでお泊まりの予定立てたりして…ソノちゃんさあ、渡辺君と仲良すぎじゃない?連絡取り合ってるし。わたし連絡先も知らないのに」 「えーーーー!!そうなる?じゃあ俺が環の家行く?」 「ソノいないとやだ」 「ソノちゃんいないとやだ」 ハモった。環と同時。目が合ったのも同時。 …嬉しすぎる!思い切り抱きしめた。 「気が合うね!」 「んん…そうだね」 「ソノのことも大好きなんだけど、先生のことを好きって気持ちはまた別物なんだよね」 「うんうん、わかる」 首筋に顔を擦り寄せた。甘いにおいがする。 耳にはきらきらした一粒の… 「先生、これってピアス?」 指先で触った。 「ううん、イヤリング」 「そうなんだ。ピアスかと思った!可愛いね。クリスマスの時着けてたのも可愛かったし」 「あ、ありがとう、」 ソノのため息が聞こえた。 「環、倒れるんじゃない?真っ赤だけど」 「え!」 「3日まで耐えられそう?」 「…がんばります……」 「えーー!頑張るようなことじゃないじゃん環!」 「んん…」 環は少し不満げな唇のかたち。 我慢できない。 18歳だし我慢が効かないばかだと思って諦めて欲しい。こんな唇、キスしないでいられるわけない! 「都!!」 怒られた。

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