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mess up;92;環

ソノちゃんが、人間はいつでも発情できるだろ、って言ったとき「たしかに」って言った都くんの声で、血の気が引いた。そうだ、きっとしたことあるじゃん。あんなに言い寄られるんだから、それこそ付き合うとか付き合わないとかって話じゃなくて、気分次第でやったりとか、全然有り得るじゃん、高校生だけどめちゃくちゃ大人っぽいし… 図らずも動画で見たことのある柔らかそうな女性の体を抱きしめる渡辺君の姿が想像できた。 「この際だからはっきり言うけど、俺は環とそういうことしたいよ」 いろんな疑問がぐしゃぐしゃに混ざる 「環はそういうの嫌い?したくない?俺とするのが嫌?俺じゃない誰かとならする?」 その上に質問を矢継ぎ早にされて、 「…わかんない、したことないから」 「えー!ほんと?…じゃあ一緒だね」 一緒?信じられない、 だけどこうなった今、その想像は砕かれた。 こんな視点になるんだ、 と、わたしの胸元でさらさら揺れる黒くて長めの髪と、ときおり見える鼻筋と、むにゅむにゅ動く舌や上唇を見て思った。 初めて体験する感触は想像をかなり超えてきた。からだ全体がびりびりして、ぞくぞくして、もっとしてほしいって強請る気持ちで頭がいっぱいになった。勝手に少し腰が揺れた。 胸元から顔を上げた都くんは息が荒くて、なんていうかすごく、かっこよかった。こんな顔、絶対に誰にも見せないでほしいと思った。 キスをされたら唇も舌も、勝手に動いた。 トイレ!って盛大に転けながら行ってしまった都くんを見たら、まだ子供っぽさが残ることに少しほっとした気持ちになった。 と同時に、わたしの中にもまだ熱が燻ってしまっていることに気がつく。どうしよう、 ソファーに座り直して、セーターの襟を引っ張って体を見た。さっきまで唇が触れていたところは少し濡れてる。そのせいでまた思い出して、ぞくぞくしてくる。 水道を使う音がしたから、洗面所に向かった。 都くんは手を洗ってて、鏡越しに目が合った。 「あ、……ごめん、」 謝られてしまった。やっぱり無理だって思ったのかな、 燻った熱も急速に冷めていく。 「なんてことしちゃったんだろう俺…」 ちょっとだけショックだな… 笑顔を貼り付ける。大丈夫、冷静に、 「こちらこそ、ごめんね!さっきの全部忘れられるかな、色々とこれからほら、他の人と経験して、上書きして、」 「いや無理だよ、忘れられると思う?違うよ、ごめんねって言ったのは環のこと好き勝手して自分だけいったから……余裕が全然なかった…自分が気持ちよくなることしか考えられないっていうか…」 「わたしも余裕なんてなかったよ!」 都くんは不安げな目をしてる。一歩近づいて、手を握った。大きな手、 「……まるくてやわらかい胸がちゃんとあって、触ってもらえるんならどんなにいいだろうって、思ってた」 指が長くて少し骨ばってる。この手を離したくないって、はっきり思った。 「…さっき、すごく気持ちよくて、なにも考えられなくて…こんな体でもこんなふうになれるんだ!って、自分の体のこと、少し好きになれた」 「本当?」 「うん。本当に気持ちよかった、もっと、って、思うくらい」 素直にならなきゃいけないって思った。 わたしなんて、と思う気持ちがなくなったわけじゃない。だけどわたしは都くんと一緒にいたい。 「やっぱり上書きしないでほしい、」 「そんなのしないよ、また…今度はちゃんと、色々…こんな衝動的なんじゃなくて準備して…環のことも、その…気持ちいい、って…思ってもらえるように頑張るから、俺」 いつの間にか手は握られていた。 熱い手。視線も 「わたしも気持ちよかったよ。これからずっと一緒に楽しくて…しあわせだなって思えたら、いいな」 「…環、」 「卒業したら、待ってるね」 「待てるかな、卒業まで…」 「今日が異例だっただけで、待たなきゃだめなんだから…便宜上まだ付き合ってない」 「付き合ってる!あ!ちょっと待ってて」 都くんは慌ててリビングに行った。 わたしも後をついて行く。 「指輪、完成したよ!サイズ間違ってないといいけど…手、いい?」 ………どっちを差し出せばいいだろう?分からなくて両手を出した。左手を躊躇なく取られる。 「大切にするから。環のこと絶対に幸せにするからね!」 大仰だ…!と思ったけど、嬉しい。 言葉にならないくらい… 薬指にぴったりと指輪が嵌った。

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